入居者、オーナー、施工会社をつなぐ秋葉不動産の楽器可(相談)賃貸マンション。コンセプトは「音楽を騒音にしない」住まいづくり

「カナデルーム」では、たくさんの楽器可(相談)賃貸を紹介しています。しかし、その成り立ちは様々。音大隣接などの環境、音楽をコンセプトとした不動産会社の企画、地所・物件を持つオーナーの思い、そしてプロ・アマを問わない演奏家やミュージシャンからの需要などにより様々な楽器可物件が成り立っています。今回の取材地、神奈川県川崎市多摩区登戸は洗足学園音楽大学昭和音楽大学が近くにあるところ。「カナデルーム」編集部は「音大がそばにあるから楽器可(相談)賃貸を手がけている」という先入観を持ちつつ株式会社秋葉不動産を訪ねたところ、そこには意外なストーリーが待っていました。12年にわたり、ミュージックコンセプト 「楽器可(相談)」賃貸マンションの企画立案から入居者募集・管理まで豊富なノウハウを蓄積してきた「ひでちゃん」こと秋葉英樹社長にお話を伺いました。

楽器可(相談)賃貸ネット上の物件情報。気を付けたいのは演奏時間の記載

──まずは、秋葉社長の考える「楽器可(相談)賃貸マンション」とは、何かを伺います。

秋葉 インターネットで楽器が演奏できるマンションを探す場合、まず気をつけてほしいのは、“時間制限についての記載の有無”です。「22時まで」とか「24時間OK」といった記載です。この記載がないマンションは、制限についての認識が薄いのでトラブルになる可能性が大きいと思います。記載がないなか実際に住み始め、「常識的な22時」で演奏をやめて問題なかったものの、お隣さんが変わった瞬間からクレームが出る。お隣さんとしては演奏時間の「常識が20時まで」だったわけです。つまり、楽器可(相談)賃貸マンションには明確なルールが必要なのです。

──最近では、24時間OKと言われるマンションもありますね?

秋葉 昔から、近隣への遮音がされていてマンション内では多少漏れてもお互い様、というケースはあります。一方、最近では、24時間演奏に対応しているしっかりした防音機能を持つマンションシリーズもあります。しかし、記載がないから24時間OKか?と言われるとまったく違います。インターネット上の情報でも、楽器可(相談)である限り、演奏可能時間帯を示してほしいですね。

──今後は、演奏時間の項目設置など、詳細情報を記載できる仕組みも必要ですね。

秋葉 ええ、同様におおまかにでも演奏可能な楽器の種別も情報として必要だと思います。「楽器可」といえばイコール「ピアノ可」が一般的ですが、ピアノがOKなのに不動産会社に聞いてみるとバイオリンはNGというのは情報として曖昧です。付け加えるならば、ピアノは低音から高音までの音域と音量の幅があるので、多くの楽器の音をカバーしています。ピアノよりバイオリンは音量もなく、高音楽器なので比較的遮音しやすい。そのため「ピアノ可」であれば、バイオリンも問題ないといってほぼ間違いないです。一方、低音は遮音しにくくテナーサックスや声楽のバリトンなどは楽器可(相談)賃貸でも課題となるでしょう。ちなみに当社には声楽可の物件もあります。いずれにしても楽器制限があるならば、それについての情報発信が必要だと思います。

楽器 相談

 入居者の理解が必要となる楽器可(相談)賃貸の「明確なルールの共有」

──ありがとうございます。インターネット上の情報がより精度の高いものになるよう「カナデルーム」でも頑張っていきます。さて、実際に秋葉社長の「楽器可(相談)賃貸マンション」を運営する上で大事にされていることは何でしょうか?

秋葉 まず、冒頭申し上げた“明確なルールの共有”です。そのために、入居希望のお客様にはしっかりとお話をします。まずは演奏時間帯です。楽器可(相談)賃貸には一般の方が入居していますので、演奏時間を22時までと制限しています。 弊社の物件では楽器を弾かない方も10〜15%お住まいです。二重サッシ、コンクリートを厚めにするなど構造的な防音をしていますが、防音カーテンなどでそのフォローをお願いしています。一般の住まいでも近隣クレームの多くは“騒音”ですので、重要なところです。また、トロンボーンなど含めて 基本的に楽器は前に音が飛んでいくものが多いので、窓に向かって演奏しないようにお願いしています。少々厳しいかもしれませんが、契約時に許可した楽器以外はNGにして変更は許可制です。楽器の特性を把握した上でお部屋を選んでいるので、これもトラブル防止策の一環と入居者の方にはご理解いただいています。

──それは厳しいですね。それでも入居率は95%と伺いました。
※編集部注:東京都市部の入居率は86%、入居率95%はマンションとしては非常に高レベル。(2016年5月データ提供:アットホーム株式会社)

秋葉 そうです。クレームになるとお互いに元も子もありません。契約時には、覚書、特約など書類作成に2時間かかることも。しかも、署名は認識を高めてもらうために1枚1枚手書きです。私もこれを見ながら「手間をかけさせて申し訳ないな」と思うぐらいです。しかし、ルールが大事であることを入居するお客様に分かっていただく最初のタイミングなので、お願いしている次第です。そのせいか、ご本人が退去後もその方の紹介で入居を希望してくる方が圧倒的に多い。結局、厳しいルールがあっても、慣れてしまえば快適に演奏できる環境があることがいかに重要かということでしょう。

楽器 相談
書類への署名は、ルールが大事であることを入居するお客様に分かっていただく最初のタイミングだ。

楽器を弾く者同士の雑談をきっかけに、お客様・施工会社と長い付き合いが始まった

──音大生が多く住むこの登戸ですが、そもそも、秋葉社長が手がけている「楽器可(相談)賃貸マンション」を始めたきっかけは何だったのでしょう?

秋葉 そもそも、音大が近くだからという理由で始めた事業ではありません。近年は音大生が減っているせいか、学校側もサービスの一環として遅くまで練習できるようにしています。じつは、楽器可(相談)マンションを取り扱うようになったのは、12年前にあるオーナーの方からいただいたアパートの立て替え案件が始まりでした。オーナーの方との雑談で、お互い若い頃に楽器を弾いていたことから意気投合し(笑)、「音楽のある生活はいい」と、楽器の弾けるマンションを建てることになったのです。最初はお恥ずかしい話、クレームが出ました。しかし、施工会社と相談しながらその対応を行い、また、演奏する入居者の方とのコミュニケーションでさらに学んできました。施工会社は当時から変更していません。文字通り、一緒に育ってきたわけです。

秋葉 たとえば電気コンセントの改善要望。当初は従来のコンセントだったのでグランドピアノが塞いでしまい使い勝手が悪かった。だから今はピアノの配置換えをしても問題ないようコンセントがたくさん(笑)!こうした小さな積み重ねで現在は8棟を企画・運営、これから9棟というところまできました。また当初はシングル用から2人用のお部屋でしたが、「2人入居可の部屋は住まいとして快適でなくては」と、5.6畳〜12畳の防音室を設置して同居者への気遣いができる住まいにしました。その後、入居者の方に子供が生まれると楽器を実家に預けて引っ越していくというシーンを目の当たりにして、楽器が弾けるファミリー層向けのマンションを用意しました。今考えれば、お客様と長くおつきあいさせていただくなかで現在のラインナップになったわけです。

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秋葉不動産のカップル向け楽器可(相談)賃貸マンション「四季」

お客様とのつながり、施工会社との二人三脚を今後も大切にしたい

──人とのつながりで生まれ育んだ楽器可(相談)賃貸だったわけですね。現在の課題を挙げるとしたら何でしょうか?

秋葉 様々な人、楽器に出会い、叱咤激励いただきながら柔軟に対応をしてきましたので、今のところこれといったことはありません。常に会話を通じて改善を重ねていくことにも変わりありません。楽器可(相談)賃貸の賃料は他の一般的なマンションに比べると高めです。しかし、これはマンションの供給過多によるもので地域全体としての賃料が下がっているからです。入居希望者の期待に沿った楽器可(相談)賃貸の賃料としては適正ですし、むしろ入居率の高さが語るように特色ある住まいとして優位だと考えています。

秋葉 演奏家の住まいということで、デザインにもこだわっている点もご評価いただいています。また、ロフト付きやメゾネット、あるいは12畳地下スタジオ付きのお部屋もチャレンジしました。おかげさまで満室です。退去時の原状回復も一般マンションと変わらないので、特に困ったことはありません。ただ、経験もなしに通常マンションを楽器可(相談)賃貸にするのは難しい。お客様とのつながりを大事にして、施工会社と二人三脚で積み重ねた経験が、音楽を騒音としない住まいづくりに役立っていると思います。今でも入居者の方の演奏会に赴いて生の音を聞き、演奏環境改善のお話をたくさんさせていただいていますよ。

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トップ写真「シャントゥール・ド・ナチュール」の共有部分
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大きな窓から緑が楽しめる「コンセール・ド・フォレ」の居室

楽器演奏が自由に楽しめる楽器可(相談)賃貸を基本にしつつも住みやすさを追求し、かつ、入居者のライフステージによって住み替えができる秋葉不動産の楽器可(相談)賃貸マンション。住まいが決して建物という箱モノではないことに改めて気付かされた秋葉社長のお話でした。大切なのは楽器可(相談)賃貸の防音構造だけではなく、そこに暮らす人のルールを守る気持ち。そして、不動産会社・入居者・オーナーの活発なコミュニケーションが楽器可(相談)賃貸をよりよいものにする大きなポイントだと思いました。

この記事を書いた人

編集部 中根
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