自宅で思いっきり楽器を演奏したい!練習したい!そう思っている方は多いですよね。でも「どのくらい遮音が必要なんだろう?」分からない単位が多くて何が何だか・・・」など、お部屋を選ぶときは色々な疑問が湧いてくるはずです。
ここでは音に関する最も基礎的な用語の説明と、楽器の特性と防音性能の関係などについてお話します。
dB・Hz・Dr・T-値 防音にまつわる用語の説明
まずはそれぞれの用語について説明していきます。
dBとは・・・
工事現場の横を歩いていると「ただいまの騒音80dB」という数値を見たことないでしょうか?
dB(デシベル)というのは、音の強さを表す単位として使われ、一般的に話し声は60dBくらいと言われています。静かな住宅地で40dB程度、車の音は80dB程度、ジェット機の音(付近)は140dB程度あります。
Hzとは・・・
物理学的には単位時間あたりの波の数を表す周波数の単位ですが、音の場合「高さ」を表す単位で、ヘルツと呼びます。Hzの値が小さいと低い音になり、Hzの値が大きいと高い音になります。
一般に20Hz~600Hzの低い帯域を「低音域」、800Hz~2,000Hzの帯域は「中音域」、4,000Hz~20,000Hzを「高音域」と呼びます。楽器の出す音の周波数は低音域から中音域の領域です。
防音の話をするときは、かならずどの周波数(Hz)での話か、というのを注意します。というのも、低い音と高い音では防音性能や取扱が違ってくるからです。
Drとは・・・
音楽専用マンションに行くと「Dr-70」などという数値が載っています。また、防音室にもDr-40、Dr-45という数値が載っていることもあります。このDr-〇〇とはなんでしょう?
Drとは遮音性能を表す単位です。Dr-30、Dr-40というように表記します。
例えばAの空間で100dBの音を出し、壁を隔てたBの空間で聞くと70dBに聞こえたとします。この時この壁には100-70=「30dBの遮音性能がある」といいます。また、上記にもあるように防音性能は高い音か低い音かによっても変わります。そのため防音性能を測る際には、周波数125、250、500、1,000、2,000、4,000Hzの6つ帯域でそれぞれ音の強さの差を測定します。
測定したその差を日本建築学会の遮音基準曲線にあてはめ、測定値がすべての周波数帯域においてある基準曲線を上回るとき、その基準曲線につけられた数値によって遮音等級を表します。この遮音等級の値をDr値といいます。Dr-値が大きいほど防音性能が高いと言えます。
上記の例でも、すべての周波数で基準を満たしたときに、遮音性能はDr-30と言えるということです。
T-値とは・・・
T値はサッシの遮音性能を示します。Dr値は部屋間の遮音性能ですがT値は特にサッシの値を指します。サッシを挟んで内部または外部で音を出し、Dr値と同じように周波数125、250、500、1,000、2,000、4,000Hzの6帯域での音圧レベルを測定します。
T値の遮音基準曲線にあてはめ、すべての周波数帯域において、ある基準曲線を上回るとき、その基準曲線につけられた数値によって遮音等級を表します。
T-1~T-4まで4段階に分けられ、T値が大きいほど防音性能は高くなります。
人の可聴領域と各楽器の大きさ・高さの目安
人が音として聞き取れる音の高さはおおよそ20Hzから2万Hz(20kHz)と言われています。これは、年齢や突発的な原因によって変わります。
ピアノの一番低い音は27Hz、一番高い音は4,186Hzです。そして、真ん中のラの音は440Hzとされています。真ん中のラの音は基準音といい、440Hzで調律するか442Hzで調律するかという話は楽器奏者の間でよく知られています。
最も音域が広いパイプオルガンなどは弾く音が10Hz~1万Hz(10,000Hz)くらいまで出るものもあるそうです。
また、ほかの楽器は下記のような周波数です。
- ベース:40Hz~200Hz程度
- ギター:82Hz~1.3kHz程度
- ヴァイオリンやフルート:260Hz~2kHz程度
音の大きさも楽器によってさまざまです。
- ピアノ:90~100dB程度
- ギター:80~90dB程度
- トランペットやトロンボーンなど金管楽器:90~110dB程度
- サックス:110dB程度
- ヴァイオリンやチェロなど:90~100dB程度
- ドラム:130dB以上
一般に音の低い楽器は音の高い楽器より防音がしにくい傾向にあります。なので、同じ金管楽器でも、音の高いトランペットより、音の低いトロンボーンの方が防音しにくいです。
音の高い楽器の方が耳に残るため、感覚としては逆に考えがちですが、低い音の楽器を演奏する方は注意が必要です。
防音にかかわる法律からみるベストな立ち位置
では楽器を演奏する時、どんなことに気をつければよいのでしょうか?
流していい音の大きさは環境基本法によって基準が定められています。具体的には次の通りです。
- 療養施設、社会福祉施設などが集合して設置される地域など、特に静穏を要する地域…昼間50dB以下、夜間40dB以下
- 専ら住居用として供される地域…昼間55db以下、夜間45dB以下
- 住居と併せて商業、工業用に供される地域…昼間60dB以下、夜間50dB以下
(昼間を午前6時から午後10時までの間とし、夜間を午後10時から午前6時までの間とする)
また、道路に面している場所については、それぞれの地域で前述した基準値にプラス5~15dBを加えた数値となります。楽器を弾くときは基本的に、外に漏れる音はこれ以下にしなければいけません。つまり防音室など楽器を弾く部屋には環境基本法によって定めれらた基準値まで落とす防音性能が求められます。
例えばピアノの場合「専ら住居用として供される地域」で夜間に弾こうとすると、100dB-45dB=35dB以上の防音をしないといけません。これがドラムになった場合、120dB-45dB=75dBの防音が必要になります。また、75dBの防音性能は鉄筋コンクリート造の中に防音室を作った値で、木造の建物ではなかなか難しい作りとなります。
数字で見ると、防音対策としては道路に面している場所や幹線道路に面している場所に住むほうが簡単な防音で済むことがわかると思います。
また、上記は行政が定めている環境基準であり、マンションなどの集合住宅の場合はさらにマンション独自に定めている基準があります。演奏可能な時間が決められていたり、そもそも演奏禁止となっていたりする場合もあります。その場合は、決められた時間以外に音を出すことはトラブルの大きな原因となります。必ず規定内で演奏することが大切です。
また、この基準や規定内に満たされているので大丈夫というわけではありません。もっと小さな音でも気になる人はいるし、どんなに素晴らしい演奏でも、それを美音と感じるか騒音と感じるかは他人次第というのは常に頭に置いておかなくてはいけません。
まとめ
音に関する最も基礎的な用語の説明と、楽器の特性などについてお話しました。演奏する楽器がどのくらいの音が出るのか、低い音か高い音なのか、弾くのは昼なのか夜なのかによって必要な防音性能が変わります。まわりに気兼ねなく演奏できる環境を作るために、参考にしていただければと思います。
執筆者プロフィール
田中 渚
音に関わる部屋を主に設計している建築事務所を主宰。音響設計会社に勤務し、レコーディングスタジオ、コンサートホールの設計に携わったのち、一級建築士事務所を設立。
音楽家の防音室、音楽室、音楽カフェ、演奏可能なマンション等を設計。
3歳よりピアノ、10歳よりチェロを始める。高校時代にコンサートホールでソロを弾き「こんな空間が作りたい!」と一路、建築家を目指す。東北大学卒業 建築専攻、神戸大学大学院修了 建築音響専攻。事務所併設の24時間防音されたショールームで「音楽とともに暮らす空間づくり」を自ら実践中。