防音先進国ドイツの防音対策をご紹介
「楽器を部屋で演奏したい」「ライブ配信を部屋から行いたい」「好きなアーティストの配信ライブを大きな音量で楽しみたい」
コロナ禍の自粛要請により自由に外で遊べない現在は、これまで以上にそう思っている方が多いと思います。
しかし、現在住んでいる部屋の壁が薄いために少しでも大きな音を出すと外に聞こえていないか不安になっている方はたくさんいるのではないでしょうか?
最近でこそ日本でも防音マンションやさまざまな遮音材などが増えてきていますが、まだまだ安心して大きな音を出せる環境は少ないのが現状です。
今回は「先進国不動産投資の本命登場 ドイツ・ベルリン」の筆者であり、多くのドイツ不動産を日本人に売却した経験のある尾嵜豪が、遮音先進国であるドイツの遮音事情を紹介します。
寒冷なドイツでの断熱対策が防音効果も
ドイツは日本より寒い国で、冬に備えた建物の断熱化に力を入れています。特にアルトバウと呼ばれる石造り・レンガ造りの伝統的な古い建物は、暖房や給湯に多くのエネルギーを消費してしまいます。
電気・石油・ガスの消費を抑えるには、建物自体の断熱効果を高めることにより省エネ化を図ることが重要です。そのためにドイツではエネルギー証明書(エネノミス)という仕組みを開発しました。
外壁、屋根、窓、ドアなどから出るエネルギーがどれぐらいなのか、ボイラーやエアコンがどれぐらい省エネできる性能なのかなどが分析され数値として可視化されます。
例えば、「外断熱にする(住宅をすっぽりと断熱材で包み込む工法で建物全体の保温効果が高くなります)」「窓を二重・三重にする」「省エネ型のボイラーに交換する」等によって、この数値が改善されます。
ドイツでは不動産を売買・賃貸するとき、売買価格や賃料がエネルギー証明書の数値によって左右されます。もしエネノミスを作っていなければ罰金があるほど、厳しく運用されているのです。
外断熱で建物ごとくるむ
ドイツは通常の結露対策だけでなく、壁内部の結露をおさえるために、外断熱と内断熱(外気に面している壁と部屋を飾る内壁との間に断熱ボードを挟み込む工法)の両方を行うのが一般的です。結露を防ぐように断熱をすることで、壁が厚くなり防音効果が高まります。
ちなみに日本では充填式と呼ばれる内断熱はなされていますが、外断熱がなされていないことが一般的です。日本では外断熱をしないことが多いことが、結果として防音性能が低くなっているといえます。
三重サッシの時代
ドイツは古くから寒さをしのぐ為に窓を二重にしていました。窓の間に空気層ができることで、結露も抑えられ断熱効果が高くなるのです。
日本でも二重サッシやペアガラスは多くなっているためイメージがつかめると思います。
しかし、ドイツはその先を行っており、三重サッシの時代が来ています。空気の層が2つになるので断熱効果はさらに高くなります。
建物で熱の出入りが一番多いのが窓と言われています。せっかく温めた部屋からどんどん熱が逃げていくということは、エアコンやストーブがエネルギーを出し続けているということになり、コスト面だけでなく環境面でもよくありません。
そこでドイツでは三重サッシが主流になっています。エアコンの効きが良くなりコストも下がります。
寒さを防ぐためにサッシを二重にするなど増やすと、結果として防音につながります。さらに最近流行している三重サッシにすることによって、今まで以上に防音性・省エネ・防犯性が上がっています。楽器を演奏する方だけでなく生活音なども低減されるという効果があります。
ほかにも防犯性能があがりますので、三重サッシの効果は非常に高いといえます。今後、日本でも三重サッシが主流となる時代が来るかもしれません。
壁の厚いアルトバウは遮音性能が高い
ドイツは実はそれほど防音・遮音性能にこだわっているわけではありません。権利意識の強い国なので、夜9:00以降の演奏はしてはいけないなどの規則が日本より厳しいぐらいです。
最近はドイツでも鉄筋コンクリート造が増えてきています。しかし、伝統的な石・レンガ造りであるアルトバウはドイツらしい街並みを形成する人気ある建物です。
アルトバウは断熱技術が発達する前の工法で建てられており、厚い壁と高い天井が特徴です。最近ではアルトバウに断熱材などを施工することが増えており、上下階や隣の部屋との物理的な遮音物がしっかりと存在しています。
ドイツでは防音そのものに注力することはあまりありません。しかしエネルギー効率のために断熱に力を入れていることが、結果として高い遮音効果をもたらしています。そのため、ドイツのミュージシャンは非常に壁の厚いアルトバウを探し好んで住む人が多いのです。
マンションの防音化
ドイツは賃貸物件で暮らしている人が多いのが特徴です。例えば、ベルリンだと実に85%近くの人が分譲ではなく賃貸物件を選んでいます。
日本人の感覚だと、賃貸物件はあまり防音を含めたリフォームをしづらいように考えてしまいます。しかしドイツは原状回復に寛容で、好きにリフォームしていいよという大家さんが多いのです。
また、賃料水準が比較的低いため、日本より間取りの多い部屋を借り、一つの部屋を防音室として遮音板や防振ゴム、吸音板などを施工して暮らしている方が多いのです。
近所との密な関係
ドイツは近所づきあいを大切にする人が多い特徴があり、隣人に頼み事やお願いをするのは良くある日常の光景のひとコマです。
ドアに張り紙を貼ってお願いをすることもよくあります。隣人と事前に仲良くなっておくことで音に関してもトラブルを防ぐことができています。
「昼の何時から何時までヴァイオリンの練習をしているので気になるようでしたら、インターホンを鳴らしてください」などと張り紙をしたり声をかけたりします。
音に関しては最大限遮音できるように努めるのは大切ですが、音に対する許容度は人によって異なります。
ドイツのように、トラブルになる前に良好な関係を築いておくことで、急に警察が来るなんていうことは回避できるでしょう。
日本とドイツの防音意識の違い
日本は密集して建築された木造戸建てや木造アパートが多く、薄い壁で隔てられているだけという場所に住んでいる方も多いでしょう。階下や隣人の電話の話し声が全て丸聞こえなんていうのも一般的かと思います。
そのため、日本人はトラブルを避けるために他人の音に対して「お互い様」として許容する力は高いのです。
しかし、楽器を演奏することやライブ配信をするとなると、さすがに許容はされないでしょう。
日本と違い、ドイツは石・レンガ造り、鉄筋コンクリート造が当たり前で部屋も広く断熱性能や遮音性能が高いのが一般的です。
日本でも遮音に注力した防音マンションが多く建てられるようになってきています。
ドイツのエネルギー効率に対する考え方は世界で最も進んでいると言われています。日本はまだまだ効率の悪い建物が多いのが現状です。今後はドイツの高い遮音性能を参考にし、さらに日本の技術を足した防音マンションが増えていくことを期待しています。
まとめ
前述したようにドイツには高い遮音効果を持つ建物が多いのですが、最近の日本でも高い断熱・遮音効果を持つ建物が増えてきています。楽器を演奏したいというだけでなく、ライブ配信を楽しむといった用途にも防音マンションは最適です。ぜひ次に住むなら防音マンションを選択肢に入れてみてください。
執筆者プロフィール
尾嵜 豪
不動産コンサルタント
不動産コンサルティングマスター、FPを持つ宅地建物取引士としてお客様に最も喜んでいただけるように数多くのプロとしての提案をさせて頂いております。
特に富裕層の個人のお客様及び法人のお客様、個人事業主の為に、都内マンション、一戸建て、居住用物件、事業用物件、投資用物件を多数20年以上にわたって仲介してきた実績があります。
都内近郊でのビル用地取得~設計~建築~テナントづけ~管理までの総合プロデュースの実績があり、企業の不動産顧問をしております。
都内タワーマンションや海外不動産を交えた豊富な実績とグローバルな視点でのお手伝いに長けております。
不動産に関する著書があります。またYahoo、幻冬舎、ZUU、不動産投資の教科書、トチカム他多くの媒体にコラムを執筆しております。