「音楽室が欲しいけど一体どのくらいの大きさが必要なの?」という疑問は計画段階でよく聞かれることです。
楽器演奏可能な賃貸物件を探す時、どのくらいの大きさの間取りを検討すべきか、組み立て式の小さな防音室の導入を検討しているが、どの大きさのものを購入すればいいのか悩むところだと思います。
楽器によっても変わるため、今回は主な楽器ごとに必要な部屋の大きさをお話します。
音楽室に必要なもの
楽器を弾くスペースの他に「譜面台」「楽譜棚」「楽器置き場」、また最近では「簡単なレコーディングやオンラインの配信機材」なども置く需要が増えています。
演奏上最低限必要なスペースと、快適な演奏環境としての広さは違います。
最低限必要なスペースは基本的に楽器と自分と譜面台。
短時間練習するにはいいのですが、小さすぎる部屋は圧迫感があり、壁との距離が近いため反射音が大きいため、精神的にも音響的にも長時間快適に弾ける空間とは言い難いものになります。
また数人でアンサンブルをしたい場合は、演奏に必要なスペース+動線の確保が必要です。
ぎりぎりの配置計画をした結果、ピアノの下を潜っていかなければいけないなどの例も少なくはありません。
ピアノに必要な大きさ
・グランドピアノ
楽器自体の大きさがあるため、最も部屋の大きさが必要となる楽器です。入口からピアノの演奏席に行く場所までの動線の確保も必要です。
調律の関係から楽器の前後にはある程度スペースを保って配置しなければいけません。
グランドピアノを置きたい部屋の短辺に必要な大きさはどのピアノもほぼ一緒で88鍵盤の場合約2.0mです。
長辺はピアノの品番により異なり、演奏者の必要な演奏スペースによっても変わりますが、C3相当のグランドピアノの場合一般的に約2.6m、部屋の大きさは最低でも3.5畳は必要です。
一番小さなC1相当のピアノの場合でも3畳は必要です。C2相当からC7相当までは数字が1つあがるごとにおおよそ10cmずつ大きくなります。
C7相当のグランドピアノに必要な長辺は3.0mです。最低でも5畳以上はあったほうがいいでしょう。
どうしても長辺が取れない場合は、楽器を斜めに配置することで大きめな楽器を置くことができます。
しかし角がデッドスペースになるため、無駄なスペースが増えます。棚にするなどデッドスペースの活用法を考えたほうがいいでしょう。
ピアノは音が大きな楽器のため、小さな部屋で弾くのは音響的におすすめしません。
最低限必要なスペース+2畳分くらいの余裕のある部屋にして、美しく響く部屋にしたいものです。
特にフルコンサートモデルなど大きな楽器になるほど、本来ならばホールのような大きな空間で弾くことを想定した楽器になります。
楽器にそぐわない大きさの部屋に配置することは本来のメリットを生かせないことになるため、部屋の大きさと楽器の大きさはバランスを考えることが必要です。
・アップライトピアノ
アップライトピアノに必要な大きさはほぼ決まっています。横幅は約152cmです。
足にインシュレーターを挟むなど音響を考えると、壁と壁の間を160cm以上確保できると、その中にアップライトを配置することができるといえます。
部屋の大きさは2畳程度が必要です。ただし、音響を考えると3畳以上の部屋の方が強い反射音がなく自然な音で弾けるでしょう。
必要な大きさと天井高さ
・「ボーカル」「フルート」「クラリネット」「オーボエ」「トランペット」
立奏が多いですが、大きく手を広げる必要がないため、比較的小さな大きさで弾ける楽器です。
演奏上最低限必要なスペースは0.8畳です。天井高は人が立つ大きさを確保できれば演奏は可能です。
しかし、クラシックの歌やトランペットなど音圧の大きな楽器は小さな部屋で弾くと強い反射音のため、音が大きくなりすぎてしまうことがあります。
余裕のある大きさにして、部屋の中は吸音材を貼り、反射音を少なくすることが必要になります。
・「ヴァイオリン」「ヴィオラ」
ヴァイオリンとヴィオラは右手を大きく広げて演奏する楽器です。立奏した場合弓を高く上げるため、高さが必要になります。
演奏上最低限必要なスペースは1.2畳で、高さは2.3m以上あったほうが安心です。
しかし、組み立て式の防音室では十分な高さが取れないこと多く、座っての演奏が必要になります。
また、天井が低い空間では天井からの反射音が強すぎる場合があります。
吸音性のある天井材を使い天井からの不自然な反射音をなくしたほうが自然な音になります。
・「チェロ」「トロンボーン」「チューバ」
楽器そのものが大きかったり、楽器の一部を動かすために広さが必要だったりする楽器です。
演奏上最低限必要なスペースは1.5畳で、立奏する楽器は2.3m以上高さが必要になります。
また楽器を一時的に置いておくスペースなども考えると、2畳以上あったほうがいいでしょう。
低い音は小さな部屋では特定の低い音だけ音圧が上がるような定在波が生じたり、部屋の角に低域が溜まったりするような現象があります。
角に吸音材を貼り低域の溜りをなくしたり、楽譜棚を置いたりすることが有効になります。楽器だけでなく楽譜棚を置くようなスペースも併せて考えてもいいのではないでしょうか。
・「コントラバス」
楽器自体が大変大きな楽器で、右手を広げて演奏するため広いスペースが必要です。
演奏上最低限必要なスペースは2畳ですが、楽器を横にして置くことなどを考えると2.5畳以上はあったほうがいいと思います。
チェロやトロンボーンと同じように、定在波や部屋の角に低域が溜まりやすい楽器です。角に処理ができるよう、楽譜棚などのスペースも考えるとよいでしょう。
・「ギター」「ベース(電子楽器)」
演奏上最低限必要なスペースは1.2畳程度ですが、アンプや機材置き場が必要になります。
アンプの大きさはさまざまなため、アンプ置き場が場所を取る場合もあります。
またケーブルやエフェクターなど機材の場所の確保も必要です。音楽室の中に置く場合は、整理できるよう余裕をもった大きさが必要になります。
・「ドラム」
楽器の構成にもよりますが、大きなスペースが必要な楽器です。
小さな空間では反射音が大きくなり、演奏が困難になります。演奏上最低限必要なスペースは最小でも4.5畳以上あったほうがいいでしょう。
またドラム以外のパーカッションも大型の楽器や、小型でも多くの楽器を収容する必要があるため、パーカッション用の音楽室は余裕をもった広さ必要です。
防音室付きの賃貸を探す場合は、紹介した楽器ごとの必要な広さを目安に検討するといいでしょう。
防音室を作るときの注意
・部屋が小さくなる
遮音性能の強い防音室は、元の壁からもう一層壁を作る二重構造を採用することが多いです。そのため、元の部屋の大きさより防音室は一回り小さくなります。
実際の数値としては元の部屋の壁から全体的に約15cmずつ小さくなります。約7.4畳の部屋が6畳になり、約4畳の部屋が3畳になります。
またマンションなどの間取り図に書いてある部屋の大きさは壁の芯で算出している場合がほとんどです。
マンションの実際の部屋の寸法はそれよりも小さい場合もあるため、防音室を作るときは「必要な防音室の部屋の大きさ+約1.5畳~2畳」を見込んだ部屋の大きさを確保する必要があります。
元の壁から防音室の壁までの距離(上記では15cm)は大きくなるほど遮音性能は上がります。
必要な遮音性能と必要な演奏スペースとのバランスを考え、最終的な部屋の大きさを決めていきます。
まとめ
楽器ごとの必要スペースをお話しました。
必要最小限のスペースの大きさと、快適に演奏する大きさには違いがあります。
また今日のレコーディングや配信事情にもより、楽器以外の必要機材などが増えている傾向にあります。
より快適な演奏環境を作るうえでは余裕をもった広さで配置計画をすることをお勧めします。
執筆者プロフィール
田中 渚
音に関わる部屋を主に設計している建築事務所を主宰。音響設計会社に勤務し、レコーディングスタジオ、コンサートホールの設計に携わったのち、一級建築士事務所を設立。
音楽家の防音室、音楽室、音楽カフェ、演奏可能なマンション等を設計。
3歳よりピアノ、10歳よりチェロを始める。高校時代にコンサートホールでソロを弾き「こんな空間が作りたい!」と一路、建築家を目指す。東北大学卒業 建築専攻、神戸大学大学院修了 建築音響専攻。事務所併設の24時間防音されたショールームで「音楽とともに暮らす空間づくり」を自ら実践中。