騒音は最も身近なトラブルであり原因も様々です。
特に楽器演奏者は騒音の当事者側になりやすく、クレームを言われる可能性が高いと言えます。
今回は実際にあった音のトラブルとそれに対して行った対策についてお話します。

音のトラブル実例1:隣に引っ越してきた人が神経質だった
マンションを購入し趣味にヴァイオリンを始めたAさん。
楽器を弾いても大丈夫との規定でしたので、日中や夕方など常識的な時間に弾いていました。
5年ほどたったとき、隣の部屋の住人に入れ替わりがありました。
それまでは日中家にいないお宅だったのが、リタイアした老夫婦で日中も家にいるようになり、楽器を弾くと隣の部屋から壁を叩くような音が聞こえるようになりました。
その後マンションの管理組合を通して、騒音のクレームがありました。
防音会社も立ち会いのもと測定した結果、音の大きさも演奏時間も規定内のためAさんの行為はとがめられることではなかったのですが、Aさんはそれ以来ヴァイオリンを演奏することが怖くなり、練習できなくなってしまったと言います。
防音室を設置することも検討しましたが、結局は別の場所に最初から防音室を組み込んだ一軒家に引っ越すことで現在は思い切り演奏できているそうです。


音のトラブル実例2:夜中まで練習しないといけない環境になった
木造の戸建住宅に住んでいたBさん。
ピアノを弾いていたお子さんが音楽大学の受験の時期になり、夜中まで弾きたがるようになりました。
昼間はバス通りも近くこれまで騒音問題はありませんでしたが、夜は比較的閑静になる環境でした。
夜中に弾くと近所迷惑になるため防音室を作ることになりました。
24時間外に漏れない防音室が必要だったため、1階に壁床天井が二重の完全浮き遮音構造の防音室を作りました。
浮遮音構造モデル図
音のトラブル実例3:家族内での音のトラブル1
大人になってヴァイオリンを始めたCさんは休日にはレッスンに通ったり仲間とアンサンブルをしたりと楽しく演奏していました。
始めた当初は家族もCさんの趣味に理解を示していましたが、娘が大きくなり受験期になりました。受験のストレスもあるのか、父親のCさんが楽器を弾くと怒鳴り込んでくるようになりました。
思春期の難しさもあり話し合いでは解決できそうにないため、しばらくはヴァイオリンを弾くのをあきらめようと思っていたそうです。
ヴァイオリンは隙間から音が漏れますが、そこまで防音が難しくない楽器です。防音対策として、娘の部屋から最も離れた押し入れの扉を防音扉に変更し、壁に遮音シートを貼って防音強化しました。
その結果、娘の部屋に音が聞こえることはなくなり、その後その部屋はリモートワークの際のCさんのオンライン書斎になって活用できているそうです。
音のトラブル実例4:家族内での音のトラブル2
音楽サークルで知り合って結婚した同じ楽器同士のDさん夫妻は新しいマンションを購入しました。
同じ楽器のため音が聞こえるとつい口出しをしたくなる、夫婦間のけんかの元となると考え防音室を検討しました。
防音室にする部屋の扉を隙間のない防音扉に変更し、壁に遮音シートを貼って防音強化しました。
また防音室の隣にクローゼットを作り、防音室と直接接する部屋がないように配置しました。
新規のクローゼットの中にはドレスやコートなど吸音性の高い洋服を入れ、クローゼットがより防音性のある空間になるように工夫しました。
その結果、防音室とリビングでそれぞれ練習ができる環境になったそうです。
音のトラブル実例5:意外な場所からのトラブル
マンションでピアノを演奏していたEさんは2階斜め上の住人から楽器音に対するクレームを受けました。
管理会社に調べてもらったところ、隣や上下階の住人からはクレームが来ていなかったため、自分の家が原因ではないと思いました。
しかし、そのマンションの壁はGL工法という建築方法が使われていたのです。
これは壁の中で音圧が増幅され伝わっていき、左右上下「以外」の部屋で聞こえるという現象を引き起こします。
防音会社から原因になっている可能性があると言われ、ピアノ室のGL工法の壁のみ壊すことをしました。
また窓を二重サッシにすることで、その後はクレームが来ることはなくなったそうです。
GL工法ではコンクリートにGLボンドを塗って、石膏ボードを接着する。壁の内側に空間ができるため音が反響しやすい。
ガラス2枚を重ねた「複層ガラス」を備えた窓は、より防音性能が高いとされる。

音のトラブル実例6:意外な楽器のトラブル〜電子ピアノのペダル〜
RC造のマンションのヘッドフォンをつけて電子ピアノを練習していたFさん。
下の階から何か分からない音が聞こえるとクレームがきました。
電子ピアノなので音は出ていないはずだと反論したのですが、音の正体はペダルの音でした。
ペダルを踏みかえる際に出る足の動きがマンションの上げ床の中で反響し、衝撃音となって下階に聞こえていると分かりました。
下階の方から「そんなに大きな音ではないため、夜中寝ているとき以外は気にならない」と言われましたが、何か分からない音として気持ちが悪い思いをしていたそうです。
夜中に弾くときはペダルを使わないという取り決めを行い双方合意しました。
ヘッドフォンをつけても、電子ピアノのカタカタという打鍵音、電子ドラムのゴムを叩く音は壁の薄いアパートなどでは問題になることもあります。
その他の音のトラブル
防音のクレーム相談を受けていると、「何か分からない音」の調査に立ち会うことがあります。
中には楽器の音でないこともあります。
また、一度何かの異音が気になると、とことん気になってしまいノイローゼになる方もいます。
ちょっとした物音にも精神に悪い影響が出てしまい、その結果普段は気にならなかった小さな楽器の音も気になり始めクレームにつながるという例もあります。
異音の可能性を知っておくことは、クレームを受けた際に、別の可能性を探ること、また設備トラブルなどを事前に防ぐことに役立ちます。
・ウォーターハンマー
特にマンションなどの高層住宅で水道の栓を止めた際に、壁から「カンッ、コン」「カンカン」というがして、それが上下の部屋に伝わることがあります。
これは「ウォーターハンマー」という現象で、水を急に止めた時に圧力の逃げ場がなくなってしまい配管の中で大きな圧力が発生し、衝撃波となる現象です。
全自動洗濯機や食器洗浄機はウォーターハンマーが起こりやすい機器のため、毎日決まった時間に異音がするというクレームが、強いては楽器騒音の可能性に結び付くことも少なくありません。
・建物の異音
マンション・一軒家に関わらず建物から時々「ピシ」という音や「カン」という音を発生したりします。
コンクリートが熱膨張して衝撃音となったり、木材が乾燥・吸湿をすることで体積が膨張収縮し木材同士がこすれ合う音が発生したりすることもあります。
アルミサッシが熱膨張をしたさいに「ピシッ」という音を出すこともあります。
まとめ
音に対するトラブルの実例とその対策について述べてきました。
音のトラブルは様々ですが、発生した際はいきなり直接交渉や警察を呼ぶことは避け管理会社や大家さん、理事会を通じてコンタクトを取る方が得策です。
人間関係とトラブルは密接に関わってくるため、時には防音会社のコンサルティングを介しながら、原因の究明、解決へと対策できればと思います。
防音室が備わった賃貸を探す場合は、規約や建物の構造なども確認してから検討しましょう。


執筆者プロフィール

田中 渚
音に関わる部屋を主に設計している建築事務所を主宰。音響設計会社に勤務し、レコーディングスタジオ、コンサートホールの設計に携わったのち、一級建築士事務所を設立。
音楽家の防音室、音楽室、音楽カフェ、演奏可能なマンション等を設計。
3歳よりピアノ、10歳よりチェロを始める。高校時代にコンサートホールでソロを弾き「こんな空間が作りたい!」と一路、建築家を目指す。東北大学卒業 建築専攻、神戸大学大学院修了 建築音響専攻。事務所併設の24時間防音されたショールームで「音楽とともに暮らす空間づくり」を自ら実践中。