災害大国と呼ばれる日本では、いつどこで災害が発生するか分かりません。大きな災害が発生したら避難所生活を余儀なくされる可能性もあります。
避難所生活では、大切な楽器をどのように扱ったらいいのでしょうか。そもそも、避難所に楽器を持っていっても問題はないのでしょうか?
この記事では、災害が起こったときの楽器の取り扱いや事前にしておきたい対策について解説していきます。
避難所に楽器を持っていく手順について
避難所に楽器を持っていけるかどうかは、楽器の種類や避難所の状況によって変わります。ここでは避難所に楽器を持っていける際の手順について紹介します。
まずは避難所に向かう
大きな災害が発生したら、まずは自分の命を守るための行動として避難所に向かってください。
この時点では避難所にどれくらいの人がいるか、どれくらいのスペースがあるのか、状況が分かりません。楽器を持ち運ぶことができても、混雑する避難所で楽器を持ったままの状態になることや置ける場所がないことも考えられます。
大切な楽器を優先的に持っていきたい!と思う気持ちも分かりますが、避難所は避難を余儀なくされた人が避難する場所です。防災の観点から見ても、楽器がなくても生活には影響がないものになります。
最初の避難では、事前に用意している防災リュックや生活に必要な防災グッズなどを持っていきます。
居住スペースに楽器を置けるかどうかを確認する
避難所に避難して安全の確保ができる状態になったら、各自治体の避難所運営マニュアルに沿って円滑に避難所生活を行うための準備に入ります。
避難所ではさまざまな用途に応じた空間の確保が必要になりますが、避難所のスペースから1人もしくは家族単位のスペースが振り分けられることになります。
居住スペースについては避難所の占有面積の目安が1人2㎡(敷き布団1枚/シングルベッドと同じくらいの広さ)以上と定められていますが、避難所のスペースに対して避難者が少なければ、1人あたりの居住スペースは広くなります。
自分の居住スペースが振り分けられて、そのスペース内に楽器を置けることが分かってから楽器を避難所に持っていくのが望ましいです。
ただし、楽器は高価であることや体があたって破損してしまうリスクがあることから、避難所によっては楽器の持ち込みに難色を示す場合もあります。
避難所が開設されると、情報の集約や災害対策本部との調整を行う運営本部室が設置されるため、楽器を持ち運ぶ前に相談することをおすすめします。
小学校や中学校であれば、交渉して音楽室に置かせてもらえる場合もあります。
自宅に楽器を置いていく場合は盗難に注意
大規模な災害が発生すると、被災地では電話の使用ができなくなることやバッテリーが切れて110番通報がしにくい状況になります。自宅やお店のセキリュティシステムも機能しなくなり、避難所に向かう人が増えるため火事泥棒のターゲットになりやすいです。
高価な楽器も盗難被害に遭いやすく、特に簡単に持ち運びができる弦楽器や管楽器などは盗難のリスクが高まります。
ピッキングやガラスを破られてしまうと盗難を防ぐのは難しいですが、災害時の窃盗犯はできるだけ多くの家から効率よく貴重品を奪おうとするので、災害時に狙われやすいのは窓やドアが開けっ放しになっている家です。
災害が発生して直ちに命の危機が迫っている状態でなければ、施錠をしてから避難所に向かうことで盗難のリスクを減らせます。
避難所で楽器を保管する場合の注意点
避難所生活が始まって命の危機を感じなくなってくると、これまでの生活との違いからストレスを感じるようになります。そうなると避難所生活をしている人同士で争いが起きるケースも増えます。
ストレスを発散するために相手の所有物を傷つけるような人が出てくる場合もあるので、楽器を保管する場合はなるべく楽器から目を離さないように注意してください。
隣の居住スペースの人とコミュニケーションを取って交流しておくと、自分が場所を離れる際に見張りをお願いしやすくなります。
災害による楽器の破損を防ぐためには置き場所に気を付けよう
災害が発生すると楽器が破損してしまう可能性もあります。災害から楽器を守るためにも、楽器の置き場所には気をつけましょう。
楽器の置き場所として望ましいのは、水害から楽器を守るためには住居の最上階、土砂災害から楽器を守るためには山から一番離れている部屋です。
2階建て一軒家であれば2階の山から離れた部屋に楽器を置いておくことで災害時に楽器が壊れるリスクを減らせます。また、楽器を置く部屋には地震などの揺れで転倒しやすいタンスや冷蔵庫などの大型家電・家具などを一緒に置かないのもポイントです。
住居の購入や住居の賃貸を検討している場合は、ハザードマップを確認して水害・土砂災害が少ないエリアを選びましょう。災害に強い場所に居住することが、災害から楽器を守るためにもっとも効果的な方法です。
ハザードマップの確認には国土交通省が運営している『ハザードマップポータルサイト』が便利です。次の記事で詳しく触れているので参考にしてみてください。
楽器が災害で壊れてしまったときの対応や対策
楽器が災害で壊れてしまっても、場合によっては無料修理が受けられることや保険金が支払われる場合もあります。自宅に楽器を置いている方は、楽器が災害で壊れてしまうことも想定して対応や対策を行いましょう。
メーカー保証の確認
楽器が災害で壊れてもメーカーの保証期間内であれば無料修理や交換を受けられる場合があります。
楽器を購入したお店の独自の保障サービスに加入している場合も無料修理や交換の対象になります。楽器を購入する場合は長い補償プランに加入することをおすすめします。
また、大規模災害で楽器が壊れた場合に公的書類である「罹災証明書」や「被災証明書」をメーカーに提出することで、通常よりも安い料金で修理ができるケースもあります。
電子楽器については浸水被害に遭うと漏電する可能性が高く危険なので、見た目が壊れていなくても修理や交換、買い替えをおすすめします。
楽器保険に加入する
楽器保険に加入することによって、もし災害で楽器が壊れても補償してもらうことができます。
楽器に保険をかける方法として、動産総合保険や火災保険などがあります。
動産総合保険は不動産・自動車・船舶・組み立ての機械以外にかけられる保険で楽器も対象です。
動産総合保険や家財保険は、火災・爆発・落雷・ひょう・雪・暴風などの災害による損害が対象になります。ただし、プランによっては洪水・高潮・土砂崩れなどの水災による損害は対象外になるので注意が必要です
火災保険(地震保険)は火災による被害の補償が主ですが、保険によっては津波・噴火・浸水などによる被害も対象になります。楽器の補償も含まれるプランもあります。
動産総合保も火災保険(地震保険)も多くの保険会社で取り扱っています。保険料は保険をかける楽器によっても変わってくるので、まずは保険会社に相談してみましょう。
楽器と保険については次の記事でも触れているので、参考にしてみてください
まとめ
今回は災害が発生したときの楽器の取り扱いについて紹介しました。
楽器を避難所に持っていけるかどうかは、避難する場所や人数、避難所の方針によって変わります。避難所の治安が悪い場合は自宅に置いておく方が安全なケースもあります。
普段から災害が起こっても楽器の被害を最小限に抑えるために置き場所を工夫することや楽器保険に加入するなどの対策も必要です。
新しい住居や賃貸物件を探している方は、災害リスクが少ない地域を探すのもポイントになります。楽器を守るためにも災害の少ないエリアに住みましょう。
執筆者プロフィール
田頭 孝志
防災アドバイザー/気象予報士
田頭気象予報士事務所
愛媛の気象予報士・防災士。不動産会社の会員向けの防災記事、釣り雑誌にコラムの連載・特集記事の執筆、BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数 ・防災マニュアルの作成に参画。