【門脇大輔インタビュー】クラシックからポピュラーミュージックへ。芸大で激変したバイオリン人生

本の楽シーンをえるミュージシャンを「カナデルーム」がご紹介するPLAYERʼS FILE。第8回はバイオリニストの門脇大輔さんです。

Superfly、MISIA、ポルノグラフィティからOfficial髭男dism、BiSHなど、つねに旬のアーティストのストリングスアレンジやレコーディングで楽曲制作現場を支え、また、水樹奈々などのライブでは華麗な旋律で魅了。

いまやJ-POP界に欠かせない門脇さんですが、以前は東京芸術大学へ進んだ生粋のクラシックバイオリニスト。その柔軟な才能に迫るべく、自宅スタジオにおジャマしました!

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バイオリン ソリストを目指し、練習漬けの小中高時代

──バイオリンは幼少期からでしょうか?

5歳くらいからです。うちは家族全員が音楽をやっていて、母親が家でピアノを教えて父親が中学校の音楽教師でトランペットを吹いていました。物心付いたときには音楽に囲まれた生活で、自然と僕はバイオリン、弟はチェロ、妹はマリンバに。オーケストラを観て「バイオリンをやりたい」と言ったらしいんですが覚えがなくて(笑)。

門脇大輔 インタビュー バイオリン
自宅スタジオを直撃しました!

──ご近所の先生に習っていたのですか?

小学生までは近辺の先生でしたが、本格的に東京芸大を目指すとなると、中学生ぐらいから毎週土日に京都まで片道約3時間半かけて通っていました。先生もせっかく遠方から来るからと気合入れて3時間位レッスンしてくれて。ヘトヘトになって帰っていましたね。

──やめたくなったことは?

思春期は毎週毎週土日にレッスンに行くのがすごく苦痛で…。でも「今がんばらなきゃいけない」とバイオリン漬けの生活を送っていました。やめたいと思ったこともたくさんあります。歯を食い縛って先生に食らい付いていきました。

──当時、憧れていた音楽家は誰でしたか?

もちろんバイオリニストでした。ヤッシャ・ハイフェッツとかダヴィッド・オイストラフですね。


芸大で遭遇した革命。バイオリンはもっと自由でいい!

──転機はやはり芸大でしょうか?

難しい芸大に合格して「これまでの練習がやっと報われた」と思いました。器楽科バイオリン専攻なので、バイオリンを弾くために大学に行ってました。

そんな芸大1年の学園祭で衝撃の出来事があったんです。広場の特設ステージで先輩方がライブをやっていて、1人はアコースティックのバイオリン、1人はエレキ・バイオリン、そしてバンド。彼らはエフェクターで歪ませたり色んなフィルターをかけたりアドリブ演奏したりと、僕のバイオリンの概念を全く変えてしまう音とスタイルで、聴いたこともないジャンルを演奏していたんです。

門脇大輔 インタビュー バイオリン
「弦一徹とNAOTOのサウンドに衝撃を受けた」と門脇さん。

あとで知ったことですが、演奏していたのは、弦一徹こと落合徹也さんと、金髪のバイオリニストNAOTOさんで、当時からポップス界でそれぞれ多忙な毎日を送っていた2人が共演するというラッキーなステージでした。ジャンルはいわゆるフュージョンでしたが、僕にとってはものすごい衝撃で。「今まで自分はバイオリンをものすごく狭く捉えてたな」と。そして、「バイオリンはもっと自由でいいんだ、だったら自分にもやりたいことがたくさんある!」と思いました。これが転機というか、自分にとっては革命でした。
実際にこの2人と一緒に仕事するようになるのは、ここから数年後の話です。

これをきっかけに今までやってこなかったジャンルへのチャレンジが始まり、友達とバンド組んだり勉強したりしました。アレンジや作曲に興味が湧いて弦楽カルテットの譜面を書いてみんなで鳴らしてみようとか、ライブやってみようとか。

今振り返ると、高校卒業までの自分と、芸大に入学して東京に出てきていろんな人と出会ってからの自分が本当に別人のような人生だなと思います。

──なるほど、まさに今の門脇さんにつながる出来事でしたね。学生のときはバイオリンを弾けるお部屋に住んでいたのですか?

音大生専用の音出し可の物件でした。最初に住んだのは上野の近く、浅草付近です。弟と妹も芸大付属高校に入ったので兄弟3人で。手狭になって埼玉に引っ越し、上野に通っていました。ここも音出し可のマンションで鉄筋鉄骨、線路脇でした。

──演奏時間は設けられていましたか?

9時から21時だったと思います。バイオリンにはミュートもあるのですが、楽器そのものを鳴らす練習をしなきゃいけない。ミュートつけながらの練習はあまり意味がないので、きちんと音出せる時間帯に思い切り練習していました。

門脇大輔 バイオリン
現・自宅スタジオは二重サッシになっている。

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デビュー後に湧いてきた、アレンジ・作曲への欲求

──卒業してからはどんな活動を?

在学中からスタジオワークは始めていましたが、卒業後はClacks(クラックス)というユニットでメジャーデビュー、そのあと門藤というユニットでもメジャーデビューしました。どちらもインストユニットです。

最初はカバー曲中心だったので、僕としては「もっとオリジナリティをプラスしたい…だけどそのノウハウがない」と悶々とした日々でしたね。

そんな中「自分が作った自分だけの作品を残せるようになりたい…」と思って、DTMに詳しい先輩と秋葉原で機材一式を揃えたんです。とにかくオリジナルもやろうと。この頃からだんだん自分で音楽を生み出す楽しさを感じるようになりました。色んなことをやりたい思いが強かったので、ジャンルを固定せずにとにかくいろんな作品づくりに励みましたね。

このくらいの時期に、クラシックでは出会えなかった様々なミュージシャンとの出会いもたくさんあり、ブレッカー・ブラザーズやインコグニートにハマったり、タンゴのバンドを組んでバンドネオンと絡むバイオリン表現を勉強したり。自分の中に色んなジャンルの要素が入ってくるのが楽しくてしようがなくて。ジャズを好きになり、ロックを聴き、エレキ・バイオリンを作ろう!となり(笑)。僕の場合、ずっとクラッシックしか聴いてこなかったのが逆に良かったと思います。変な固定観念なしでどんどん吸収していった感じですね。

──近年の門脇さんの活動といえば水樹奈々さんのライブが定評ですが、現場では何に気を付けていますか?

シンガーをいかに気持ちよく歌わせてあげられるか、ですね。だから、自分があまり気持ちよくなり過ぎないよう気を付けています。歌のフレーズが終わるところにバイオリンのフレーズを入れ始めようとか、音色の面でも音域の面でも歌をとにかく邪魔しないように、歌が終わったら自分の音域を上げていこうとか。歌がきちんとセンターにいて、その周りにバイオリンの音が散りばめられている…曲全体のつくりに気をつけています。調和と主張のバランスが大事ですね。ストリングスアレンジをするときも同じようなことに気を付けています。

門脇大輔 インタビュー バイオリン

レコーディングとライブでバイオリンを使い分ける

──愛用のバイオリンについて教えてください。

バイオリンはメインで使ってるものとライブ用のもの。あとビオラとエレキ・バイオリンを持っています。メインのバイオリンは中学生のとき親に買ってもらったものでずっと大事に使っています。イタリアの楽器なので音が明るくてポップスに合うんです。

門脇大輔 インタビュー バイオリン
メインで使っているイタリアのバイオリン。

ライブ用のバイオリンはHeffler(クラウスへフラー)で30~40万円くらい。これに僕はパーカッション用のピエゾ K&KのHot Spotを張って、振動をジャックで拾いエフェクターを通して自然なバイオリンの音に近づけてアウトプットしてます。それとピンマイクDPAの4099を混ぜて、別々で音を出します。やはりピンマイクだけだと、バイオリンはすごく細い…キンキンでシャリシャリな音になっちゃうので。

これでボディの音がちゃんととれます。擦る音はDPAでカバー。この2つを混ぜるとすごく自然で他の音も拾いにくいし、ハウりも全くなくきちんとバイオリンの音として聞こえます。ちなみに水樹さんのライブもこれを使っています。

門脇大輔 インタビュー バイオリン
ライブ用。パーカッション用のピエゾ(K&K)でカスタマイズしている。

──エレキ・バイオリンは?

エレキ・バイオリンは特注です。こだわり部分はブリッジの高さ。ブリッジが高いと、その振動を拾ってから伝わるまでちょっとだけタイムラグがあります。僕はこれが嫌で、ブリッジを極限まで短くしてもらいました。ギターのブリッジに近く、発音した瞬間に音がアウトプットされます。この仕様の楽器は本当に世界にひとつだけ。とても気に入っています。

──キーボードやギターを弾くようになったのはいつからですか?

DTMをやるようになってからです。ピアノは家で親に教わっていたので少しずつ弾き始めました。色んな音色が鍵盤で出せる楽しみを知ると、のめり込みました。

ギターも同じです。いかに本物のギターぽく打ち込むことに時間を割くより、実際にギター弾いちゃったほうが早いのではないかと。義父の形見にレスポールをいただいたので、見よう見まねで弾くところから。そうすると「ストラトが欲しい」となり、だんだん増えました(笑)。

──バイオリニストはギターの上達が早そうです。

フレットがあるギターはなんて便利なんだ、と(笑)。ギターならではの難しい奏法はたくさんありますが、単旋律を弾くことに関しては初心者に優しい楽器でした。バイオリンは0.01ミリ指の角度が変わっただけでピッチが変わるので、指の角度に気を使うのが大変です。

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バイオリニストのDTM(楽曲制作)とは?

──DTM、楽曲制作についてお聞きします。門脇さんの楽曲はKポップやポップロックからHIPHOPテイストまでバラエティ豊かですね。バイオリンがあまり使われていませんが…。

バイオリニストの作曲というと、ほとんどの人がクラシックのクロスオーバー的な、バイオリンメロのフィーリングミュージック系を思い浮かべます。僕は「バイオリニストだから」という凝り固まった常識を壊せないかと考えています。

↓門脇大輔 作詞/作曲/編曲

──DTMで使っているツールなどを教えてください。

ちょうど最近、最新システムに変えたところです。Mac miniを買ってディスプレイは別にして、もう片方のディスプレイにはミキサーを表示させていることが多いです。アレンジはProtools、譜面作成はSibeliusを使っています。

──五線紙で手書きはやらないですか

やります。特に水樹奈々さんのツアーは曲数がめちゃくちゃ多い。全部をSibeliusで作ってると間に合わないので自分で書いています。

──ソフト音源を使っているのですか?

わりと一般的な音源を工夫して使うことが多いです。Omnisphereの音源やStylus RMX。最近はNATIVE INSTUMENTSのソフトがたくさん出ているので、その中でお気に入りのものとか。それに自分のバイオリンをレコーディングしてしまえば、それだけオリジナリティーが出せますから。

DTMを始めて、「クラシックやってて良かった」と思いました。例えば、現代アートを紹介する番組BGMなどでは、弦楽カルテットのようなクラシカルな要素が必要になります。こういう響きは僕の頭に入っているのでスッと作れます。また、優秀な弦楽奏者とのつながりも大きなメリット。ここにチェリストに来てもらって録音したり、自宅録音できる奏者とデータでやり取りできます。

とにかくいま、DTMで作曲するのが楽しくてしようがない。勉強したいことや吸収したいことがまだまだたくさんあります。

門脇大輔 インタビュー バイオリン

クラシックとポップスを弾いて気付いたこと

──プレイヤーとしてのクラシックとポピュラーの違いは?門脇さんは双方を知っていらっしゃいますが…。

クラシックのバイオリンは、オーケストラの中で縦のラインがきちんと合ってたらサウンドするもの。ポップスは、ドラムの打点にバイオリンの打点をきちんと合わせるもの。でも、これを意識できるバイオリニストが結構少ないんです。

バイオリンは弦がふるえて初めて発音する擦弦(さつげん)楽器です。自分の音を録ってその波形を見たら一発で分かりますが、バイオリンはふるえ始めてから発音するまでどうしても時間がかかってしまう。その時間をいかに短くして、一番大きい冒頭の発音からどういう波形で減衰させていくかがポピュラーミュージックでは大切です。

──なるほど。では、クラシックのバイオリニストへのアドバイスはありますか?

クラシックをやらなくなって20年近く経っているのでアドバイスできる立場では…。ただ、ポップス中心になって自分の細かいプレイに敏感になりました。

クラシックはコンサートホールで後ろのお客さんにも音が届くように演奏するので、激しく弾いてノイズが鳴ってもあまり問題がない。でもポピュラーは側にあるマイクが全部の音を拾ってしまう。自分が無意識のうちに弾いていたものが、すごく雑だったことに気づきました。

クラシックのバイオリニストは、指を早く動かすなど技術を追い求める練習が多くなります。でも今一度「音をきれいに鳴らすには何に気を付けなきゃいけないか」に立ち戻るといいと思う。基礎的な部分を操作できるようになると、難しい曲の演奏に応用が利くと思います。

──マイクやアンプを介すことで大きく変わるのですね。

たぶん両方経験した人じゃないと、わからないかもしれません。クラシックのプレーヤーは大学卒業後は基礎的な部分に着目することがほぼありません。僕の場合、それができたからプレースタイルが変わった。一度基礎に立ち戻ると何かが変わると思います。

──後輩バイオリニストたちへのアドバイスはありますか?

自分の場合はやはり音楽をつくり始めたことが大きかった。いまは20年前と比べると機材が簡単に安く手に入るようになり、簡単にDTMで楽曲制作できる時代になりました。今まで曲を作ったことがない人でも、コードを勉強してバイオリンを録音するだけで曲として見え始めます。

僕もかつては「自分は曲なんかつくれない」と決めつけていました。「今後どうしよう」と考えているバイオリニストには、”弾く”から”つくる”へのチャレンジをおすすめします。

門脇大輔 インタビュー バイオリン

──最後に、活動中のGRAPLE JAM(グレープルジャム)とライブサポート予定について教えてください。

GRAPLE JAMは僕がリーダーを務める自由な音楽プロジェクトです。作詞作曲編曲はもちろんすべて自分で。その瞬間やりたい音楽をやりたいメンバーと自由に演奏する、レコーディングする、ライブをするというスタイル。インストでもいい。歌を入れてもいい。決まっているのは僕がリーダーということだけで、活動もジャンルも決めずにメンバーも自由に入れ替える。仕事で行く先々で出会ったミュージシャンたちと、普段できないプレイで大爆発したいです。歩みはゆっくりでも、自分が納得のいく音楽を丁寧に残していきたいですね。

ライブサポートは、水樹奈々さんのツアーが直近、そしてマオ from SIDさんツアーと続きます。

──みなさん楽しみにしてると思います。本日はありがとうございました!

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この記事を書いた人

編集部 中根
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