日本の音楽シーンを支えるミュージシャンを「カナデルーム」がご紹介するPLAYER’S FILE。第4回目はトロンボーンプレイヤーの湯浅佳代子さんです。クラシックやジャズのみにとどまらず、さまざまなジャンルの有名アーティストとのレコーディングやライブをこなし、映画やCM、アニメ、ゲーム音楽などへも活躍の場を広げている湯浅さん。その変幻自在なプレイスタイルには、どんなトロンボーンへの取組みが隠されているのでしょうか?
また、学生時代からいくつかの楽器可賃貸をわたり歩いたという湯浅さんに、お部屋のことや愛用のミュートのお話なども聞くことができました!
中学の吹奏楽部から高校のジャズバンド部へ
●まずは、トロンボーンとの出会いから教えてください。
中学の吹奏楽部です。小学生からトランペットやってたのでサックスがやりたかったのですが、先生が「トロンボーンはサックスとほぼ同じだから、やってみない?」と。でもそれはトロンボーンがいなかったから。だから、あまりやりたくなかったですね(笑)。
でも、高校進学のときに千葉県に全国的にめずらしいジャズのビッグバンドの部活があることを知って、その部に入るために進学しました。ジャズバンド部ではビッグバンドの曲だけじゃなくて、ラテンジャズやディズニーの曲のジャズアレンジ、フュージョン的な楽曲などいろいろな音楽性に触れました。ジャズのほうが吹くこと自体が楽しかったし、自由でしたね。
●吹奏楽とジャズではどんな違いがありましたか?
吹奏楽のときはバッキングばかりで正直おもしろくなかったし目立たないなぁと思っていたけれど、ジャズだとスターになれるというか(笑)、急に活躍できるようになったんです。その頃4歳からやっているピアノと並行してましたが、トロンボーンのほうが楽しくて上になりました。
当時は朝7時くらいから朝練でした。初めて自分のトロンボーンを買ってもらったのもあって、登山用のリュックサックにトロンボーンケースを固定してけっこうな距離を自転車で往復してました。毎日、今思えばよくやっていたなぁ。初めてのMYトロンボーンはヤマハのステューデントでしたね。
その頃はとにかくでっかい音が出したかったんですが、他も吹奏楽から来た人ばかりだったのでジャズで音を出すと結構大人しくて。東京スカパラダイスオーケストラとか、米米CLUB、BIG HORNS BEEが流行っていた頃だったので、「私はあれと同じ音を出す!」と意気込んで練習していたのを覚えています。
音大進学後、トロンボーンの音が出せる楽器可賃貸へ
●洗足音楽大学のジャズコースへ進学されてから、一人暮らしに?
最初は成田から通っていましたが、当時は今より交通が不便で大変でした。あまりにも1限に出られないから大学の近くへ引越して。そこは朝9時から夜9時まで弾ける楽器可賃貸でしたが、防音の設備はなく住んでいる人全員が音大生。周りの音が結構聞こえるので部屋ではそんなに練習しなかったなあ。防音性能が高い大学の練習室のほうが集中できましたね。
大学卒業後は練馬の楽器可賃貸へ。練馬には武蔵野音大があるから、たくさん物件がありました。大きな道路沿いの鉄筋マンションで、車が常にうるさいから楽器OKという物件。隣がトランぺッターで向いがオペラ歌手でした。
●音大卒業後は家で練習する割合は増えましたか?
増えました増えました!とりあえず朝起きたらすぐに練習。逆に練習していないと周りがうるさいんです(笑)。他の楽器の音が気になるので、ドアに隙間テープを張ったり壁に卵パックを貼ったりしました。貧乏だったので近くの工事現場からゴム板とか拾ってきて壁に張ったことも。あきらかに捨てられているものは、即、ネコババです(笑)!
●楽器可賃貸ではトラブルや苦情はありましたか?
住人同士では100%ないですね。でも、外部(隣近所)の人から苦情があってモメていました。外部とのやりとりは大家さんがやってくれていたのですが。だから張り紙に「ぜったいに9時以降には弾かないでください」と鉄の掟が書かれていました。
●いまお住まいのお部屋は楽器可ですか?
最近はスタジオに早めに入って練習することが多いので、楽器可ではないんです。お部屋で吹くときは消音ミュートを使っています。金管楽器のミュートは、鉄筋のマンションだったら日中吹いても絶対大丈夫です。トロンボーンのミュートではベストブラスがおすすめ。消音性ナンバーワンだと思います。練習用には、消音性はやや落ちますがオクラミュートもいいです。価格が手頃ですし。
トロンボーンの魅力、そして演奏の難しさ
●湯浅さんにとってトロンボーンの魅力はどんなところですか?
トロンボーンはホルンの次くらいに古い成り立ちで、教会で演奏する宗教楽器から始まっています。音を分析すると人の声にすごく近いそうで、教会でお祈りをするとき神々しい雰囲気を演出するため演奏したといわれています。そういうミステリアなところがあるかと思えばきったない音も出るのがトロンボーンで、これだけいろいろな表情が出せる楽器はないと思います。スライドでベースのように音と音の間のクォータートーンを出せるのもトロンボーンだけですし、可能性がいっぱいあるところが私は好きですね。
●演奏の難しさは、やはり音程が取りにくいところでしょうか?
音程は鉄のスライドを動かして調節します。ポジションは基準があるのですが、じつは感覚的に取っています。金属なので温度が上がるとピッチが上がり続けるし、自分の唇がリードなので演奏を重ねていくと余計な力がかかってきて筋肉が締り、さらにピッチが高くなります。だからトロンボーンは、つねに音程を調整し続けなければいけない。
メーカーによっても特徴があって、スライドを動かさないB♭でも、厳密にいうと5ミリくらい出したり1センチ近く出さないと合わないなどあるので、本当に耳勝負です。気持ちのいい音程感(=絶対音感?)を自分で持っていないと、いろんなことをやってくれないのでとても難しい。だから、ピアノなどの音程感をしっかり持っていないと厳しいと思います。
そもそもトロンボーンは、トランペットやサックスのようにメロディを吹きやすくできていません。楽器と自分が三位一体にならないと音が出ないので、早く弾くとか高い音を出すとかは他の楽器に比べて2倍以上がんばらないと難しい。できないところから始まるので、トロンボーンって根気がないと何が面白いのか分からないかもしれませんね。
●始めた頃はどんなことができるとうれしかったですか?
吹奏楽部のときはT-SQUAREの「宝島」!トロンボーンがうまくないと吹けないフレーズあって、吹ける人はスターなんです。それを目指して練習してました。
じつは私、T-SQUAREさんの40周年のアルバム「CITY COASTER」にレコーディングで参加しています。サックスとトロンボーンのデュエット曲4曲を私が担当していて、ツアーにも同行します!まだメンバーさんとじっくりお話できていませんが、いずれタイミングがあれば「宝島」の話をさせていただこうかな。たぶんいろいろな人からお話されているとは思いますが(笑)。
●ブレスのトレーニングは、どんなことされていますか?
ヨガをやっていた時期があります。結構息が入るようになって、よかったですよ。身体が脱力してないと息が入らないので、体をほぐしたりストレッチや整体もやりますね。家にはテニスボールとかのいろいろなグッズがあります。ちょっとアスリートぽくなりますね。
それから、忙しくてもスクワットだけは毎日やっています。息を出すときにお腹にグッと力を入れるんですが、お腹だけ鍛えるより、お腹につながっているところも鍛えると全体で力を入れられるようになります。トロンボーンプレイヤーも体幹は大事ですね。
●ブレスを使う面で、女性には難しい部分はありますか?
女性は男性に比べて息の量は少ないし力もありません。そのままでは難しいので、私自身も効率いい息の出し方やどういう楽器のセッティングをしたらよいかなど独特な研究をしてきました。身体が小さい人は大きな音をただ出すよりは体力面に気を使ったほうがいいし、マウスピースも大きなものより小さなものを使ったほうがいいと思います。
雑多で貪欲な音楽への追及が、幅広い表現力に!
●湯浅さんにとって憧れのミュージシャンは?
デヴィッド・ボウイが好きです!全然トロンボーンは関係ないんですけど(笑)。私の場合、たまたまトロンボーンが職業になってしまったという感じなので、音楽性が雑多なんですよね。日本で一番節操がないかも(笑)。
子供の頃から自分の雑多さは感じていて、クラシックやジャズだけじゃなく「おもしろいな」と思うといろんな音楽性を調べるのが好きでした。いまはワールドミュージックとシンセサイザーに凝っています。でも、必ずそういうのがトロンボーンに返ってくる。いろんな音楽に触れて「トロンボーンと何を掛け合わせるとおもしろいかな?」と自分なりに表現しています。
音楽を遡ってルーツなどを調べることもありますが、最新の音楽でも、どういう系譜で育ってきたのか、どういう演奏家がいるのかなどを調べます。だんだん凝ってきちゃうと、「どんな機材使っているのか」まで。毎日、動画見たり音源を聞いたりしていて、わりと研究派ですかね。
●だから湯浅さんはいろいろなジャンルの人から声をかけられるのですね。では、トロンボーンをやっている後輩たちにアドバイスはありますか?
ありがたいことにトロンボーンでいろんな人に声かけていただいたり、映画の音楽に参加させてもらったりといろいろやっています。若い方々に言えることは「なんでもやってみたほうがいい」かな。たぶんこれからは多様性の時代になるはず。一つのことを突き詰めるのも大切ですが、1個1個、自分の目の前にあることの中身をちゃんと見て、調べて、いろんなことに手を出して興味を持ったほうが、結果、自分を生かす道が見える気がします。
●昨年、1stアルバム「How about this??-妄想劇判作品集-」をリリースされましたが、バラエティ豊かでユニークな作品ですね。制作期間はどのくらいでしたか?
曲づくりを始めてからは半年ですが、構想は2年くらい。レコーディングは2か月かかりました。コンセプトは映画音楽で、自分にいろいろな映画監督さんが「湯浅さん、私の映画の音楽を作ってください」ってオファーしてきたら「こういう音楽ですよ」という…。だから曲調がバラバラなんです。映画が大好きなので、ぜひ将来は映画音楽をつくってみたいですね。
これから「How about this??-妄想劇判作品集-」リリース記念ライブで関西をまわります。今回はアコーディオンとバイオリンとトロンボーンの私といった編成です。みなさんぜひ遊びにきてください。
PROFILE & INFORMATION
<湯浅佳代子>千葉県出身のトロンボーンプレイヤー、作曲家。洗足音楽大学ジャズコース在学中から都内ジャズライブハウスで活動を開始し、松本治氏に師事。これまで数々の有名アーティストたちと共演&サポートを重ね、2017年に初のソロアルバム「How About this??-妄想劇判作品集-」をリリース。
●共演&サポート:山下洋輔、片岡大志、T-SQUARE、鈴木慶一、KERA、ASA-CHANG、堂島孝平、HALCALI、DEEN、YO-KING、Kinki Kids、川嶋あいetc…。
●参加バンド:WUJA BIN BIN、odusseia、wasabi、二藍ロマン楽団
●愛用のマウスピース: Vincent bach mt.varnon NYモデル 12C
※LIVE情報は、以下オフィシャルサイトをご参照ください。
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