自宅に防音室(スタジオ)を作るには?全ミュージシャンの夢を防音のスペシャリストに聞いてみた!

自宅でいつでも楽器を弾きたい!歌いたい!……そんなミュージシャンたちの夢は自宅に防音室(スタジオ)を作ること。ではそもそも、防音室とはどのような構造になっているのでしょうか?どんな自宅にもできるのでしょうか?

そこでカナデルームは、音楽スタジオや防音室の設計・施工を数多く手がけるSONA(株式会社ソナ)さん(東京都中野区)を直撃。自宅に作る防音室(スタジオ)の施工方法など、あれこれお聞きしてきました。

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防音室(スタジオ)は、固定遮音構造と浮遮音構造の2種類

今回カナデルームのインタビューを快く受けてくださったのは、株式会社ソナ代表取締役・社長の浅賀達也さん(写真右)と、建築管理グループマネージャーの佐藤慶太さん(写真左)。SONAさんには技術・設計・施工の3つのセクションがあり、それぞれのスペシャリストたちが三位一体で上質な音のための空間を作り上げているのが特徴です。

──まず、一般の住宅で防音施工をするケースについて伺います。どのような施工依頼が多いのでしょうか?

佐藤 一般住宅にお住まいの方からは、音楽スタジオの施工依頼をいただくケースが多いですね。ご使用の楽器は特にピアノが多く、続いてボーカルやギター、ドラムの方がいらっしゃいます。

──楽器の種類によって防音施工の種類、費用に違いはありますか?

佐藤 はい。音の伝わり方の性質上、高い音の遮音はしやすく低い音の遮音は難しい傾向があるので、楽器の持つ音域によって防音施工の種類と費用が変わります。例えば、高音が出やすい楽器に比べて、低音の出やすいベースなどの楽器は遮音が難しく、その分の費用がかかります。

佐藤 防音施工の種類は大きく分けて2種類あります。1つは簡易的な防音室(スタジオ)に用いられる固定遮音構造(こていしゃおんこうぞう)、もう1つは音楽スタジオなどの防音室(スタジオ)に用いられる浮遮音構造(うきしゃおんこうぞう)です。事前にお客様が演奏する楽器の音量や音域の特徴、予算などを伺いながら細かな打ち合わせを行い、どちらの施工方法を採用するかを決めます。

──では、固定遮音構造と浮遮音構造、それぞれの遮音の仕組みの違い、コストの違いについて教えてください。

佐藤 まず、簡易的な遮音を行う固定遮音構造について。固定遮音構造では天井から床まで間仕切りの板を立て、四方を間仕切りに囲まれた空間を作ります。間仕切りにはLGSプラスターボード材やホモゲンボード材、パーチクルボード材などの防音素材を使用します。施工のしやすさに加え、比較的安価なコストで済むというメリットがあります。(図-7)

自宅 防音室 スタジオ
日本音楽スタジオ協会「音楽録音スタジオにおける音響設計ガイドブック」より。

 

佐藤 もう一方の浮遮音構造では、もともとの建物にある天井、床、壁にほとんど接しない空間を作ります。建物の構造から「浮いた」ような部屋を作ることで、振動を遮断し、音を外に逃がさない仕組みです。こちらのほうが遮音性に優れていますが、構造が複雑になるため、固定遮音構造の約2倍以上の施工コストが必要になることもあります。(図-8)

自宅 防音室 スタジオ
日本音楽スタジオ協会「音楽録音スタジオにおける音響設計ガイドブック」より。

浮遮音構造の施工の様子

 

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施工方法は建物の構造によって変わる

──戸建てとマンションではどちらの施工依頼が多いのでしょうか。

佐藤 数としては両方とも同じくらいですが、遮音性能は遮音に使用する材料の重さに比例するため、建物の構造によっては施工方法が限られる場合があります。

佐藤 例えば、木造住宅の2階部分に防音室(スタジオ)を作るとなると、耐加重(建物の構造が耐えられる重さ)の限界があり十分な施工ができません。そのため、木造住宅の2階については固定遮音構造などの簡易的な遮音を行います。木造住宅であっても1階部分が鉄筋コンクリート造になっていれば、1階部分あるいは半地下のコンクリート部分を利用し、よりしっかりとした遮音を行うことができます。

佐藤 マンションの場合も耐加重の決まりがあります。浮遮音構造で防音室(スタジオ)を作る場合は1平米あたり500キロの防音材を使用するのが理想とされていますが、普通のマンションの耐荷重は約350キロが一般的です。やはり、この場合も固定遮音構造などの簡易遮音で対応することになります。

──将来的に防音室(スタジオ)を作りたいと思っている方は、購入する物件の構造をよく調べておいたほうが良い、ということですね。

自宅の防音施工は新築時?リフォーム時?

──次に、新築時にする防音施工とリフォーム時にする防音施工についてお聞きします。どのような違いがあるのでしょうか。

佐藤 新築の場合は、家を建てる工務店さんと計画の段階からお話をさせていただきます。お客様の要望を伺い、例えば工務店さんに「固定の壁をコンクリートにできないか」といったような提案を行います。新築の防音施工では、設計段階から壁の厚さなどを考慮でき、遮音に適した設計ができるため、既存建物での防音施工よりも低コストに抑えられます。現場によっては、工務店さんの施工だけで必要な遮音が済んでしまうこともありますね。もしお客さまがそれ以上の遮音を求めていらっしゃる場合は、さらに、弊社で浮遮音構造の施工を行います。

佐藤 リフォーム時の防音施工は、既存の壁を残しつつ新たに遮音壁を設ける必要があります。が、木造住宅の場合は先ほどお話しした耐加重の問題があり、きちんとした防音施工を施すのが難しい。物件によっては建物の基礎部分からやり直すこともありますが、構造がしっかりした建物であれば浮遮音構造の施工もできます。

佐藤 また、リフォーム時の防音施工は、既存の壁に加えて新たな遮音用の壁を作るため、固定遮音構造の施工後は元の85%くらいの広さになります。浮遮音構造ではさらに狭く、元の70%くらいの広さになります。

佐藤 以上は遮音のみの話で、室内での音の鳴りを良くしようとすると壁の吸音性についても考える必要が出てきます。そのために吸音材を入れた吸音層を作るとなると、さらに狭くなります。吸音材のサイズもいろいろですが、厚みが25ミリくらいから100ミリくらい。お客様によっては、スピーカーの後ろに300ミリの吸音材を使うこともあり、完成時の部屋の広さに大きく影響してきます。防音室(スタジオ)を作る場合は、完成時の部屋の広さをイメージしながら計画することがとても大切です。

自宅に作る防音室(スタジオ)の条件とは?

──SONAさんの考える理想の防音室(スタジオ)、そして音響とはどのようなものでしょうか?

浅賀 私たちが施工するにあたって重要な要素に「静けさ」があります。外から音が入らない、そして自分の音が外に出ない。それがいわゆる「防音をする」ということなのですが、私たちはそこから先のことを考えるようにしています。つまり、自分が演奏していて「心地いいのか」「響きやスピーカーから出る音の特性がしっかり鳴る環境になっているのか」そして「長く居ても疲れない居住性があるか」という3つの要素を大事にしています。

浅賀 普段からお客様の目線で使いやすい物を提供していきたいと思っています。やはり音楽環境を重視した物づくりが大切なのですが、例えば、ただピアノの音が防音されているだけではなく、「ピアノのタッチが伝わる音響」の環境づくりを目指していくということですね。

浅賀 日本の厳しい住宅事情からどうしても優先順位が変わってきてしまいますが、何よりも「楽器を演奏する環境を良くしたい」という気持ちがあります。お客様にはできるだけ心地良い空間で音楽を楽しんでいただきたい。さまざまな優先順位がある中で、音楽のための環境の順位を私どもで何とか底上げしたいと思っています。

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防音対策は、地域の環境基準を調べることから

──ここまでいろいろと防音施工についてお話を伺ってきましたが、お部屋の防音を考えるとき、一般の方はどこから手を付けたら良いのでしょうか。

浅賀 一般的なお部屋の防音となると、真っ先に物件自体の防音性について考えがちですが、じつはその前に「そもそもどのような地域に住むのか」を考えることが大切です。

浅賀 各都道府県には環境条例という条例があり、土地の用途によって分類があります。例えば”第一種住居地域”と分類される地域では「夜中の◯時からは◯dB(※注 読み:デシベル/音量を表す単位)以上の音を出してはいけません。」というルールが定められています。部屋の防音を考える前に、こういった行政の定めたルールを知りきちんと守って生活することで、楽器の演奏音によるトラブルを避けやすくなります。

浅賀 音の問題で特に解決が難しいのは、マンションなどの集合住宅の場合です。集合住宅での音量トラブルは、実際の音量の大きさとは関係なく、他の住人が「うるさい」と感じるかどうかがポイントになります。問題がこじれてしまうと民事裁判になる場合もありますが、普段から環境条例などを守って生活していれば、法律によって守られやすくなります。お部屋で楽器を演奏される方は生活に役立つ知識として調べておくと良いでしょう。

──実際の防音をする前に、生活のレベルできちんと工夫しておくのが大切ということですね。

浅賀 そうですね。そういった生活の工夫の次にできるのは、部屋の開口部、つまり部屋の外につながっている部分への対策です。窓やドア、換気扇などの外と空気でつながっている部分を塞ぐと、ある程度の防音効果が得られます。実際に壁を足したり手を加えるような防音施工は次の段階の話です。

防音施工より前にやるべきことがある

浅賀 「自宅で音楽を演奏する=防音」と考えがちですが、本当に考えたいのは室内での音の響きや心地良さといった本質的な部分です。防音はお金をかければ解決できますが、お客様にはなるべく無駄なお金をかけてほしくありません。例えばすでに音の響きが良い物件にお住まいの人には、お部屋の防音対策より先に演奏する時間帯の工夫であったり周りの住人へのあいさつ回りや声かけといったコミュニケーションから始めていただきたいのです。それで解決できるのであれば、防音施工するまでもないのです。

浅賀 音楽を楽しむことを重視すると、防音!防音!と進めていくよりも、いま述べたような認識の先にある住環境を選ぶ、整えていくのが良いと思います。当社に防音のご相談をいただいたお客様には、物件探しの段階から相談して欲しいと伝えています。

──なるほど。防音施工がすべてではなく、住む場所や周りの住人の方々との関係含みで考えて良い音楽環境と住環境を作っていきたい、というのがSONAさんの想いなのですね。

正しい防音の知識をお客様に伝えていきたい

──今回、話していただいた内容を踏まえてSONAさんに相談をする場合、どのような準備があると良いでしょうか?

浅賀 一般の工務店や設計事務所では、壁に使う材料の遮音・防音性能を見て、「これくらい音量を抑えられますよ」といったご提案をされることが多いようです。しかし、しっかりと防音するための設計、ダクトや隙間の処理などの施工方法のノウハウがない場合、防音性能が足りなかったり音漏れがあって、お客様とのトラブルになるケースもあります。また、お客様自身がきちんと防音できていないことに気づいていないパターンもあります。

佐藤 弊社でも防音室の手直しのお話をよくいただきます。他の工務店さんにお願いしたものの収拾がつかなくなってしまい、弊社に依頼されます。現地に行ってみるとやはり問題点が多いのが実情です。

浅賀 このような案件が多いため、日本音楽スタジオ協会に提案をして技術指標冊子「音楽スタジオにおける音響設計ガイドブック」を作りました。自宅などにスタジオ・防音室を作るとき、どうやってオーダーしたら良いのかがまとめてある資料として、遮音・音の静けさ、電源のことなどが書かれています。

音楽録音スタジオにおける音響設計ガイドブック
B5判44頁 ¥1,000(送料別)日本音楽スタジオ協会のウェブサイトで購入できます(画像をクリック)。

──お客さまに正しい意識・音響知識を持ってもらってから防音施工ができれば、効果的な防音を施したり、コストを抑えられたりもできますね。

佐藤 確かにお金をかければ良い防音はできます。しかし果たして本当に防音施工が必要だったのかというと、疑問が残る物件が多いのも事実です。一見、同じ遮音・防音の部屋でも、弊社と他の工務店さんとでは価格が違います。それは弊社が多くの防音施工、空調設計、音の響きの改善工事などで培った専門的な知識があるからです。後から手直しをして余計なお金をかけないためにも、ガイドブックで正しい知識を持っていただき、ぜひ弊社にご相談いただければ幸いです。

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