防音室を作るにはBOXタイプで部屋に設置するものや、既存の部屋をリフォームするものなどがあります。
費用については防音室の種類に加えて、必要とする防音性能によっても変わります。
この記事では防音室の種類や防音性能による費用の変化について、そして防音室をつくる際の注意点について解説していきます。
なお、防音室の設置については事前に不動産会社等に確認の上、ご検討ください。
防音室の考え方:楽器ごとに防音性能を変える
防音室を作ろうと思ったとき、まずはどのくらい防音性能が必要なのか知ることが大前提となります。
防音性能が不足すると苦情の原因になりますし、過度に防音するとそれだけ値段があがります。過不足ない防音性能を考えることが大切になります。
防音性能は以下のように決めます。
使用用途・楽器の種類
使用用途により必要な防音性能は変わります。動画配信サイトでのライブ配信でゲーム実況や話をする場合などは簡易的な防音で十分な場合もあります。
一方で音の大きな楽器の演奏や歌唱はより高い防音性能を必要とします。
例えば、人の話す声は大体40dB程度です。これを外から音が聞こえない(20dB相当)ようにするのであれば、Dr-20程度の防音性能が必要になります。(Drは防音性能の数値で、実際に聞こえる音量は「音量(dB)-防音性能(Dr)」で計算することができます。)
対してピアノの音は90~100dB程度なので、防音性能はDr-70程度必要になります。
また、床に足がついている楽器(ピアノ・ドラム・マリンバ・チェロ・コントラバスなど)は特に注意が必要です。足から直に床に振動が伝わるので、防音に加えて防振性能を高める必要があります。
具体的には天井、壁の防音に加え、防振ゴムを敷いた床(浮き床)の施工も行う必要があります。
家の構造を調べる
RC造>SRC造>S造>木造の順で建物の遮音性能が強いので、RC造であれば、ほかの構造よりも防音室に求める遮音性能は少なくてすみます。
例えば上記のピアノの音はDr-70程度の防音性能が必要ですが、RC造にはすでにDr-50程度の防音性能があるため、RC造の防音性能+防音室の防音性能を総合して考えることが可能で、防音室に求める防音性能は少なくてすみます。
対して木造の場合、躯体の防音性能は低いため防音室の防音性能を高める必要があります。RC造と同じレベルまで上げることもできますが、その分防音室の値段は上がります。

まわりの環境をチェックする
一軒家の場合、道路の近くか閑静な場所かにより必要な防音性能は変わります。
また、集合住宅の場合は上下左右に音が聞こえたくない部屋があるかにより防音性能が変わります。つまり、マンションの場合は防音室の配置を考慮する必要があるということです。
夜何時まで弾きたいか
夜はまわりが静かになるので、同じ音でもより聞こえやすくなります。真夜中でも弾ける24時間防音性能が必要か、夜10時までかなどによって必要な防音性能は変わります。
24時間弾ける防音室の場合は、壁、天井、床をすべて2重構造にした浮き遮音構造が必要となり、値段も上がります。
防音性能について詳しくは下記の記事をご覧ください。
防音室のなにに費用がかかるか
防音室には大きく分けて2つの種類があります。
BOXタイプ
部屋の中に組み立て式の防音ユニットを置くタイプです。壁に釘などを刺せない賃貸にも置くことができ、工事が発生するものの工期が短くてすみます。
防音ユニットは10万円台の簡易的なものから50万円~100万円程度の小さなユニット、200万円以上する自由設計のユニットまで幅広く販売されています。
ただし、防音性能は最大でもDr-35~Dr-40程度となるため、ドラムなど大きな音の楽器を演奏する場合はRC造に設置するなど、もともと遮音性能が高い躯体と合わせて使う必要があります。

リフォームタイプ
1部屋を解体して防音室に作り替えるタイプです。工事が発生するため工期が長くかかりますが、防音性能はBOXタイプより高めることができます。また、変形タイプなどBOXタイプより部屋の自由度が高いです。
リフォーム不可の賃貸などはこちらを作ることはできないため注意しましょう。費用は広さや仕様にもよりますが、6畳240万~300万くらいが一般的です。
防音性能は「重さに比例して高くなる」のが原則です。軽い段ボールの防音室より、重いコンクリートの防音室のほうが高い防音性能となるのはそのためです。従って、防音室の壁や天井は普通の壁より厚く重量があります。
また、壁の内部は反響を抑えるためにグラスウールを充填したり遮音シートを貼ったりと、見えない場所に工夫を凝らしている作りとなっています。
24時間防音の浮き遮音構造の防音室は、1つの部屋の中にもう一つ部屋をつくる2重構造になっている場合が多く、普通の部屋の2倍の材料・工事費がかかる計算になります。
また、目には見えない「音」を扱うため、経験豊富な専門の設計士、職人に依頼するほうが安心です。
建設会社以外にも工事を頼むことはできますが、音響会社は必要な防音性能が確保できるまで工事する「責任施工」を担うため、一般のリフォームより単価は高くなる可能性があります。

(番外編)DIYで作る
防音室をDIYで作ることも可能です。
ただ、上記にあるように防音性能が高い防音室を作るには重い材料を使わなければいけません。かなり体力を使う上、安全を十分に考慮する必要があります。
また、音は隙間があるとそこから出ていく習性があります。ぴったりと隙間なく作る技術が防音性能を左右するため、高い防音性能を必要とする方はユニットの購入やリフォームを検討しましょう。
防音室を作るうえでの注意点
部屋が狭くなる
防音室の壁は厚く、部屋の中に2重に部屋をつくる構造のため部屋が狭くなります。
元の壁より合計25cm以上小さくなり、1畳~1.5畳程度部屋が小さくなると考えたほうがよいでしょう。なので、元があまり大きくない部屋だと施工が難しい場合もあります。
壁だけでなく天井が低くなる可能性があるため、立奏の楽器や弦楽器など弓を上部に上げる楽器の場合は天井高を注意してください。
耐荷重
防音室は重量あるため、2階以上の部屋に作る場合は耐荷重を考慮する必要があります。
200kg/㎡を想定したほうが安全で、木造の2階には施工ができない場合もあります。防音室を検討する際は設計士に相談しましょう。
窓・扉
窓や扉は最も防音性能が低くなる場所です。窓は2重サッシ、扉は防音扉にする必要があります。
特に音の高い楽器は、隙間から音が出ていきやすいので、窓・扉の防音をしっかりと対策しましょう。
空調・換気
防音室は密閉空間になるため、夏・冬はエアコンなどの空調が必須になります。
壁に穴をあけるとそこから音は出ていくので、なるべく隙間はなく、かつ新鮮空気は出入りする換気設備が設置されなくてはいけない点に注意が必要です。
簡易的な防音ユニットなどはこの対策がなされていないものもあり、気温を管理しにくくなるため注意しましょう。
防音室を作る際にエアコンが設置できるか換気設備があるかの確認は大切なのです。
火災報知器
賃貸の部屋にBOXタイプの防音室を置く場合、BOXの上に火災報知器がある場合があります。
住宅の居室に火災報知器がないのは違法となるため、VOXタイプの防音室を置く場合は防音室の中にも火災報知器を設置する必要があります。
マンションなど報知を集中管理している場合は、防音室を設置する前に管理組合などへの相談が必要になります。
コンセント、LAN
最近では録画や配信などのため、防音室内で電源を必要とする作業が増えています。
防音室は密閉空間のため後からコンセントやLANケーブルを入れることが困難です。作る際に必要な設備はあらかじめ設置するよう注意しましょう。
集合住宅の場合は規約に従う
マンションによってはBOXタイプの防音室でも設置不可の場合もあります。また、BOXタイプの設置・リフォームのどちらも工事を伴うため、マンションの規約に従うことが必要です。避難経路や消防法などに関わってくることもありますので、音響会社や設計士を通して確認することが大切です。
まとめ
防音室を作るときの費用・注意することについて述べました。
無駄なく安心して演奏できる防音室を作るには、楽器の特性、元々の躯体の構造、まわりの環境などを総合して過不足ない防音性能を考える必要があります。
また、長時間こもって楽器を練習する場所でもあるので、防音室内の環境は気持ちの良いものにすることをおすすめします。
新居への引っ越しを検討している方はマンションの構造と規約を把握したうえで探しましょう。
執筆者プロフィール
田中 渚
音に関わる部屋を主に設計している建築事務所を主宰。音響設計会社に勤務し、レコーディングスタジオ、コンサートホールの設計に携わったのち、一級建築士事務所を設立。
音楽家の防音室、音楽室、音楽カフェ、演奏可能なマンション等を設計。
3歳よりピアノ、10歳よりチェロを始める。高校時代にコンサートホールでソロを弾き「こんな空間が作りたい!」と一路、建築家を目指す。東北大学卒業 建築専攻、神戸大学大学院修了 建築音響専攻。事務所併設の24時間防音されたショールームで「音楽とともに暮らす空間づくり」を自ら実践中。