騒音対策を行う時、楽器に合わせた適切な処理を行うことが大切です。ここでは「遮音」と「吸音」に分け、それぞれの言葉の意味と楽器別の処理について述べます。
①防音・遮音・吸音の意味
騒音対策を行う時「防音」「遮音」「吸音」という3つの言葉が出てきます。これらは相互に関わっているため、その違いを誤って認識してしまうことも少なくありません。
「遮音」は空気を介して伝わってくる音を遮断して、音が外へ漏れないようにする方法を指す言葉です。また固体を介して伝わる振動を防ぐ方法も遮音の中に含める場合があります。
「吸音」は音を吸収することで、音を発している室内の音の反響を抑える方法を指します。音が外へ漏れるのを防ぐ1つの方法でもありますが「遮音」に比べて減衰量はとても小さいです。
この2つを総称して「防音」と呼び、適切な遮音処理、吸音処理を行うことを「防音対策をする」と呼ぶのです。
音を外に漏らさないためには「遮音」を基本として考え「吸音」は補助的な使い方をし、逆に部屋の中の響きをよくする時は「吸音」を基本に考えます。
②音の高い楽器について
高域の周波数の音は隙間から抜けやすい特性があります。隙間テープなどで窓サッシの隙間を埋めるだけで劇的に効果が上がる場合もあります。
ヴァイオリン
【遮音】
耳の感度を刺激する帯域のため大きな音に聞こえますが、高音で楽器が床についていないので比較的防音しやすい楽器です。窓の隙間を無くすことや、二重サッシが有効です。
【吸音】
部屋が響きすぎる場合はカーテンが有効です。遮光カーテンは裏地が反射してしまうため、避けたほうが良いでしょう。布類は高音を吸音する特性があるため、設置しすぎると音が響きにくい部屋になります。気持ちよく弾ける響きを吸音材の量で調整してください。
ギター
【遮音】
アコースティックギターは元々の音量が低いため、窓の隙間処理で改善する可能性が高いです。エレキギターは時間帯によって音量を調整したり、ヘッドフォン使用してください。
【吸音】
部屋が響きすぎる場合はカーテンが有効です。座って弾くことや、腰より低い位置にアンプがあることが多いと思います。腰より低い位置の壁に吸音材を置くことは有効です。貸しスタジオの中でも腰下に吸音材を貼っている例があります。
フルート
【遮音】
弦楽器より大きな音が出ますが、窓の隙間処理や二重サッシで改善する可能性が高いです。扉もしっかりと閉め、空気が行き来するような経路がないかチェックします。それでも音が漏れている場合は壁に防音マットを貼るなどの遮音補強をします。
【吸音】
部屋が響きすぎる場合はカーテンが有効です。カーテンより吸音が必要な場合はグラスウール、ロックウール等の吸音材を壁の一部に貼ることが有効です。
ソプラノ(歌)
【遮音】
歌を歌う場合、クラシック系の歌い方をすると音量が大きくなります。窓は二重サッシ、扉は防音扉にすることをお勧めします。それでも音が漏れる場合は壁に防音マットを貼るなどの遮音補強をします。
【吸音】
あまり吸音材を多用しすぎると自分でもより音を感じにくくなってしまいます。薄いカーテンなどの使用をお勧めします。
トランペット
【遮音】
金管楽器は音量の大きな楽器です。窓は二重サッシ、扉は防音扉にすることをお勧めします。集合住宅・住宅密集地では壁・床・天井・窓を二重にした浮床工法の防音室を作る方が安心です。
【吸音】
カーテンより吸音が必要な場合はグラスウール、ロックウールを壁の一部に貼ることが有効です。高い位置へ指向性の高い楽器のため、腰より高い位置の壁に吸音材を置くことは有効です。
③音が中低音の楽器について
ヴィオラ
【遮音】
ヴァイオリンに似た弾き方で、音量もほぼヴァイオリンと同じため、同様の処理で対策できます。
【吸音】
部屋に響きすぎる場合はカーテンが有効です。あまり多用するとすぐに響かない部屋になるため、量は調整が必要です。
クラリネット
【遮音】
窓は二重サッシ、扉は防音扉にすることをお勧めします。低い音は漏れる可能性があります。壁に防音マットを貼り、もう一枚ベニヤやボードを貼り増す(防音マットをサンドイッチ状にする)遮音補強します。バスクラリネットは特に注意が必要です。
【吸音】
グラスウール・ロックウールなどを壁の一部に貼ることが有効です。響きすぎて音がまわるような感覚の時は、部屋の角に吸音材を置くと効果があります。カーテンだまりを角に作ったり、ぬいぐるみなどを置いたりしましょう。
④音の低い楽器について
低域の楽器は床や壁を振動させます。③の窓や扉の隙間処理に加えて防振対策を施す必要があります。
チェロ / コントラバス
【遮音】
床に直接楽器を設置させる楽器は床からの振動が伝わりやすくなります。同じ弦楽器でもヴァイオリンやヴィオラより遮音が難しい楽器です。ゴムなど防振材を敷いた床を作る必要があります。低い音は壁を振動させるため、二重壁にする方が安心です。二重壁は下地を建てその中にグラスウールを充填し「ベニヤ+防音マット+ボード」のサンドイッチ状にします。
【吸音】
低域は部屋の角に溜まりやすく、部屋の形によっては共振する場合があります。部屋の角に本棚を置いたり、部屋の角に吸音材を置いたりすると効果があります。具体的にはカーテンだまりを角に作ったり、ぬいぐるみなどを置いたりしましょう。部屋全体の音が響きすぎる場合は、座って弾く楽器のため楽器に近い位置の床にラグやカーペットを敷くことが有効です。
エレキベース
【遮音】
エレキベースは時間帯によって音量を調整したり、ヘッドフォンを使用したりしてください。音が低いためエレキギターより遮音がしにくい傾向があります。どうしても生音で演奏したい場合は、アンプの下にゴムなど防振材入れると軽減する可能性があります。
【吸音】
チェロ・コントラバスと同様に角に吸音材を置き低域の溜りをなくします。ギターと同じように腰より低い位置の壁に吸音材を置くことは有効です。
トロンボーン
【遮音】
金管楽器で音が大きく、かつ低い音の楽器です。トランペットより防音対策がしにくいです。壁・床・天井・窓を二重にした浮床工法の部屋を作る必要があります。
【吸音】
チェロ・コントラバスと同様に角に吸音材を置き低域の溜りをなくします。高い位置へ指向性の高い楽器のため、腰より高い位置の壁に吸音材を置くことは有効です。特に天井と壁が交わる4隅を吸音すると響きが変化します。
バス(歌)
【遮音】
クラシックの歌い方などは音量が大きくなります。壁・床・天井・窓を二重にした浮床工法の部屋を作る必要があります。
【吸音】
チェロ・コントラバスと同様に角に吸音材を置き低域の溜りをなくします。あまり吸音材を多用しすぎると自分でもより音を感じにくくなってしまいます。気持ちよく弾ける響きを吸音材の量で調整してください。
⑤特に注意が必要な楽器
ピアノ
【遮音】
音が大きく、周波数が広いのが特徴です。つまり上記の②から④までの対策を網羅しなくてはいけません。また、脚が床に設置しているため打鍵による振動も大きいです。壁・床・天井・窓を二重にした浮床工法の部屋を作る必要があります。
【吸音】
残響があまり長くないデッドな響きの方が好まれます。カーテンやグラスウールでは高域ばかり吸音するため、低域も吸音させる工夫が必要です。角に吸音材を置き低域の溜りをなくします。調音パネルを利用したり、壁を凸凹させて音を拡散させたりすることも有効です。
マリンバ
【遮音】
音はそれほど大きくありませんが、音階を出すため耳につきやすい特性があります。かつ打楽器のため振動が大きく、遮音は想像以上に大変です。壁・床・天井・窓を二重にした浮床工法の部屋を作る必要があります。
【吸音】
デッドな響きの方が好まれます。特に床はカーペットなどにする方がよいです。
ドラム
【遮音】
音が大きく振動が大きいです。特にキックなどの重低音を消すことは至難の業です。壁・床・天井・窓を二重にした浮床工法の部屋を作る必要がありますが、音響業者とよく相談してください。
【吸音】
デッドな響きの方が好まれます。壁・床・天井全てグラスウールを貼り付け、高域を吸音し、壁を凸凹させて音を拡散させることも有効です。
⑥まとめ
楽器別の遮音・吸音の処理について解説ました。他にも色々な楽器がありますが、音量・音の高さにより③から⑥のどのタイプに近い楽器か検討し同様の処理をすれば有効です。もちろん、もとから防音対策のされた防音マンションに住むことも有効です。これを機会に防音マンションへの住み替えも検討してみてはいかがでしょうか?
執筆者プロフィール
田中 渚
音に関わる部屋を主に設計している建築事務所を主宰。音響設計会社に勤務し、レコーディングスタジオ、コンサートホールの設計に携わったのち、一級建築士事務所を設立。
音楽家の防音室、音楽室、音楽カフェ、演奏可能なマンション等を設計。
3歳よりピアノ、10歳よりチェロを始める。高校時代にコンサートホールでソロを弾き「こんな空間が作りたい!」と一路、建築家を目指す。東北大学卒業 建築専攻、神戸大学大学院修了 建築音響専攻。事務所併設の24時間防音されたショールームで「音楽とともに暮らす空間づくり」を自ら実践中。